ジュリアン・ドール

本当は、出来るものならば、ミサの相手としてもっと相応しくなって、この“舞踏会”で朝が来るまで二人で踊り明かしていたいと、いつも思うのだが、しかしジョウはダンスが一向に上手くなっていかない。


それに比べて、サロンとミサは呼吸もぴったり合っていて、見ている者まで楽しませてくれるし、決して飽きることはない。

いつも、この二人の息のあったダンスを踊る姿を見ていると、恋人であるジョウでさえ妬けてしまう程に、二人は絵になっていて、本当に仲の良い親子だと思う。


(それにしても、なんて素晴らしいメロディーだろう・・・・・。身体が勝手に踊り出してしまいそうだ)

ジョウは知らずのうちに遠い記憶の中でメロディーをたどっていた。


(そう、この曲は知っているぞ。いい曲だ。何と言う曲名だろう?)


何気なく考えてみるが、その曲名もいつどこで聴いた曲かさえも、ジョウにはどうしても思い出せなかったが、いつも何処かで聞いているように耳に馴染んでくる。


(よく知っている。そう、曲の流れがだんだん緩やかに・・・そして・・・・・ああ、何て懐かしい曲なんだろう・・・・・)


「・・・・・そうだ!この曲!」やっと、思い出した。


それは信じられないできごとに出会ったように、ジョウは、狐にでもつままれた気分になっていた。


なんということだろう?この曲は、ジョウ自身が自分で作った筈のメロディーだ。

実家の人形店の柱時計に仕掛けたオルゴールが奏でる音と、同じ旋律を辿っている。

手作りのオルゴールの奏でる音は、余りにも弱々しく、ハーリーの演奏するピアノの確かな旋律とは全く響きが違って気付かなかったが、確かにこれは、あの曲と同じ音を追いかけている。


いつも薄暗いアンティークなあの店の中で、同じ小節を繰り返すだけの単調なリズムが、今はハーリーの指先の思うままに飾り立てられて、美しい旋律となって耳元を通り過ぎて行く。

(あの曲を自分で作ったと思いこんでいたのは俺なのか?本当はどこかで聞いていた曲を潜在意識の中で覚えていて、俺は唯それを再現しただけだったのだろうか?)

ジョウはそう考えていた。そう考えるのが、たぶん自然なのだろう・・・・・。