ジュリアン・ドール

「素敵!ハーリー、とても奇麗な曲だわ」


思わずミサは、独り言の中で呟いていた。



「ねぇ、ジョウ、そう思わない?」

「あ・・・ああ、確かに・・・・・」


ジョウは、この曲を知っていた。


何と言う曲だっただろう?いつ・・・・・?どこで聞いた曲だったかは思い出せないが、有名な曲ならば、ここの専属のピアニストが弾いていてもおかしくないだろう。しかし、その、ピアニストさえ、この曲をこんなに美しく柔らかな旋律で弾くことができるだろうか?
――いや、無理だろう。


ハーリーは、音の中に溶け込んでいるように身体を揺らし、音楽と一つになっている。

その表情はなんて優しく、生き生きとして、何か別世界のオーラに包まれているようにまぶしく見えた。

(彼は、なんて音楽を愛しているのだろう。これ程までに人の心を捕らえられる演奏者は、たぶん他にはいないだろう)


ジョウは暗黙のままで、ハーリーのピアニストとしての実力を認めていた。


(ハーリー、彼が言う“前世”と言うのが本当にあるのならば、彼はその時代でもこんなふうにピアノを弾いていたのだろうか?)とも、ふと考えてしまった。


「前世だと?馬鹿馬鹿しい!そんな事が信じられるか?」


ジョウは、ふと、我に返り、自分の思った事を否定するように独り言をこぼしていた。



「お父様!」


ミサが明るい声で父を呼ぶ声が聞こえた。


「素晴らしい曲だ、さあ、一緒に踊ろう」


サロンがハーリーのピアノに誘われたのか、遠くからミサに呼びかけてきた。



「そう来ると思ってたわ!」



傍に座ってカクテルを飲んでいたはずのミサは、あっと言う間にフロアーの向こうへと駆けていた。

サロンが二階から階段を下りて、フロアーの中央へと歩いてくる。


ジョウは、この二人がお踊る姿をここで見ていることになる。それはいつものことだった。一人でこのカウンターでカクテルを飲みながら、ミサとサロンが踊る姿を見ているのが、ここへ着た時のいつもの習慣なのだ。