ハーリーは、ゆっくりと目を開いた。


目を開くと、そこには美しい黄金色の髪の・・・そう、悲劇のプリンセス、ジュリアンがハーリーの寝顔を覗いていた。


かつて、自分が違う時代に生きていた頃の義妹、美しい姫君に再会したのは、夢の中の出来事ではなかった。


夢から覚めた確かな現実の中に彼女はいるのだから。



「・・・ジュ・・・リ・・アン・・・・・」



ハーリーは、確かにここは現実の世界かと確認すべく、声に出して彼女の名を呼んだ。


目覚めた目の前で、彼の顔を覗く、愛しい義妹の姿は、可哀想に白い包帯が両の頬に負わされた傷を隠すように覆っている痛々しい姿。何者かに殴られたような、生々しく腫れ上がった傷をハーリーが手当てしたものだ。


(いったい誰がこんな酷い仕打ちを?)


ハーリーは思わず現実の中のジュリアンの頬に手を伸ばし、手当てをされた痛々しい傷の跡に手を添えて、優しく撫でた。


「やっと目を覚ましたのね、ハーリー。そろそろ起こしてあげようと思っていたのよ」


ジュリアンが、囁きかけるような、細く澄んだ懐かしい声で話しかけてくる。


「あ、ああ・・・すまない。今朝から眠れなかったんでね。腹がいっぱいになって、つい眠くなってしまった」


「フフフ……相変わらず不良なお義兄様。お父様に反抗して、お城を飛び出して、家出中の身だとローレンがおっしゃっていたわ。一国の王子様がこんな狭苦しい所に住んでいたのね。夜は、これからミューシャンのお館へ?」


“ミューシャンのお館”、懐かしい響き。


彼女はいつも、あの館をそう呼んでいた。


「ミューシャンのお館・・・?・・・・・あっそう、そう・・・ええと・・・」


(で、今はいつだ、私はここで何をしていたのだ。ああ、だめだ、遠い昔の夢を見ていて、頭がよく回らない)


ハーリーは、ジュリアンがベルシナの“舞踏会”の事を言っていると、起きたばかりで頭が回らないせいか、理解するまでに少し時間がかかった。