その日は久しぶりに、エルミラーラはハーリーとどこかへ出かけていた。


『どんなにかこの声で名前を呼んで欲しかったか、ローレン、私のローレン。わたしの心はいつまでも変わらないわ』(例え、貴方が今、誰かの夫であっても、私は貴方を待っている・・・・・いつも)


『私は、以前から君を知っていた様な気がするんだ、ジュリアン。君の名を呼ぶと、この囁きさえも懐かしい。でも、それを思い出そうとすると、突然頭が激しく痛んだり、何故だろう?ハーリーも理由を教えてくれない。きっと彼は全て知っているような気がするのだが』

『ハーリーはお医者様でもなければ神様でもないわ。だから何も知らない。でも、そうね、わたしも貴方がとても懐かしいわ。でも、それは無理に思い出す必要はない事よ、きっと。そうね…たぶん、それは前世の記憶の破片じゃないかしら?って思うの』

『前世?』

『そうよ。きっとわたしたち、前世でもとても愛し合っていたんだわ。だから懐かしいのよ。
でも、知らない前世や過ぎてしまった過去のことより、今や、これからの事の方が大切でしょ?
 ただね、私達は愛し合う運命の許に生まれてきたんだって思えたら、前世って言うのも素敵でしょう?』

『君はとてもロマンチストだね、ジュリアン。美しいジュリアン、ああ、もっと早く君に会えたなら、私は、毎日、ベルシナのあの館で君と一緒にダンスを踊って、君を兄上たちに見せつけていたいただろう』



ローレンは、懐かしそうに故郷を思い出していた。そして、ジュリアンも・・・・・。




ジュリアンは、ベルシナの“ミューシャンの館”と呼ばれる、二人の恋愛の舞台だったあの場所での思い出の日々のことを思い出していた。


(今よりは少し長めの金髪で、わたしはいつも文句を言っていたわ。

『ローレン、前髪が邪魔よ。折角のきれいな貴方の青い眸が隠れてしまうわ』

そう言うと、いつも貴方はぶっきらぼうに髪を掻き上げて照れながら、わたしにその青い眸を見せてくれたわ。でも、舞踏会で踊る時だけは、ちゃんと眸が見えるように、髪をしっかり後ろで括っていたわね。


わたしは、貴方が繕ってくれた舞踏会の衣装を着て貴方と踊る。


貴方のリードがとても上手で、みんなが私たちを見ていたわ。