「才木くん……」




何て良い人なんだろう。

不自然なくらいに、人間が出来すぎている。



だけど。




「ありがとう……!」





今の私は、嘘でも、この言葉が有難い。




「どういたしまして」



にっこりと笑いかけると、手を差し伸べてくれる。

それに甘えて、私も手を掴ませてもらう。




パタパタとスカートの埃を払うと、才木くんは、何かを思い出したようにこちらを向く。




「奈神さん」

「うん?」

「また、僕とこうやって話してもらえる?」

「いいけど……。どうして?」



こんな神様みたいな彼が、私みたいなのと話しても、何もならないのに。




「奈神さんと話すの、楽しそうだから」




作り笑いとは絶対に言えない、この笑顔。


ちょっと疑った私が、本当に馬鹿だった。




「今日はそれだけ。じゃあ、またいつか」





それだけ言ってしまうと、屋上の小さなドアから、出ていってしまった。