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感じてしまった「トキメキ」やらを隠し込んで、午前中は終わった。
教室に入った瞬間、シャッター音と悲鳴に近い声に襲われ、疲れ切った状態でただ椅子に座っていたのだが、これが予想以上に怖かったらしい。
「睨む血塗れフランス人形」
1組目のお客さんがそんな噂を流してくれたらしく、やたら賑わっていた。
椅子に座って客を見ただけで収益になる。
楽なものだ。
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「実依お疲れー。はいこれ皆からの奢り」
ガサッと机いっぱいに置かれたクレープやらたこ焼きやらの出し物。
私が狙っていたドーナツもちゃんとある。
「え……こんなに?」
「皆喜んでたよ!『奈神ヤバイ』って」
「どういう意味なんだろうね……。まぁいいや。ありがとう。頂きます」
早速チョコレートドーナツに手を伸ばし、パクリと大きく一口。
働いた、とは言いづらいけれど、とても美味しく感じる。
「実依は午後始まる前にちょっと宣伝に行ってほしいんだけど……大丈夫?無理しなくてもいいからね」
「この格好で?ネタバレになるんじゃない?」
「メイク落としてからね」
そう言ってお昼をとりながら、二人係で顔のメイクを拭き取り始めた。
ウェットティッシュが真っ赤になるのが、どうも食欲を失せさせる。
口直しにカフェラテを飲み、一息吐いた。


