「実依は今日ずっと奥の部屋で座ってるだけ。脅かしたいなら何かしてもいいけど」
「いや、そういうのいい……」
これで脅かし役……。
私が客だったら笑うな。
べっとりと塗られた絵具が気になって、つい指をそっと頬に持っていく。
薬指の腹に、丸く赤色が付いた。
「実依が目玉なんだから、しっかりやってね!」
「そう……」
人目に付かないよう、誰も通りそうにない渡り廊下を歩いて教室まで行く。
衣装も頭も足取りも重たい。
この姿を由美子さんが見たら、………どうなるんだろう。
「あっ、先生だー!」
どんな状態で由美子さんに会えばいいのかを考えているうちに、希里が先に歩いて先生と喋っている。
首から一眼レフのカメラを掛けている先生の顔は、いつもとは違う「良い先生」の顔。
流れるように聴こえる敬語が癪に障る。
「見てください先生!私がメイクしたんですよ!!写真写真!」
「ええ、随分と怖い人形が後ろに居るので、ぜひ撮りたい……」
何固まってるの。
何か言いなさいよ。
「えーっと、奈神さん……?」


