「……ごちそうさまでした」
良い具合に冷えた身体に、思い出してしまった昔話。
そんなものにいつまでも浸っていられないと、勢いよく立ち上がる。
ここに居たら邪魔になるかもしれない。
……というよりも、私が居たたまれなくなっただけ。
体の良い言い訳を見つけて、「じゃあ私はこれで」と荷物を見る。
あ。
私の目に留まったのに気付いたらしく、由美子さんはふんわりとこちらに笑いかける。
「荷物まとめた方が持ちやすいからね。ああ、あとこれも持っていってちょうだい」
大きな紙袋2つにまとめられた私の荷物。
そして、渡されたお店の紙袋には、焼きたてのメロンパン。
「荷物になっちゃうかしら?」
困ったように笑う由美子さんに向かって、大きく首を横に振る。
「ありがとうございます。でも、良いんですか?こんなに貰っちゃって……」
「実依ちゃん頑張ってるから。遠慮しないで。ね?」
こんな私に、ここまで色々としてくれる由美子さんが、嬉しい半面もどかしくなる。
ごめんなさい。
私が言葉足らずだから、嫌な気持ちにさせちゃって。
改まって言えるような言葉じゃないのは、分かっている。
だから、せめて、喜んでくれるように、態度で示さなきゃいけないんだ。
「由美子さん、」
今まで、こんなこと言ったことはなかったけど。
「10月に文化祭があるんです。うちのクラスは、お化け屋敷をします」
今なら、言えるんじゃない?
「ぜひ、来て下さい。待ってますから」
恥ずかしさやら気まずさやらを隠すように、お辞儀をし。
焼きたてのメロンパンを両手に抱えてお店を飛び出した。


