“スキ”を10文字以内で答えよ




「ふらふらしてて大丈夫かなって思ってたの。はい、麦茶」

「ありがとうございます」



由美子さんはエプロンを着けながら、こちらを向いてふふっと笑う。



「久しぶりねぇ。元気にしてた?最後に会ったの、いつだったかしら?」

「祖母のお葬式です」




一瞬だけ、「ミスった」と唇を噛むと、由美子さんは「そうね」とだけ零した。




商店街で一番賑わっているパン屋さん。
そこが、由美子さんの職場。
パートではなく、経営も切盛りも全てこなしている。




「久しぶりに会えて良かった。実依ちゃんの顔見ないと、やっぱり寂しいのよねぇ」




由美子さんの笑顔が悲しそうに見えるのは、恐らく私だけだ。

そんな表情をさせてしまっているのは、私のせいでもある。
そうと分かっているだけに、何だか辛くなってしまい、曖昧な笑みを浮かべるだけで精一杯だった。





由美子さん夫妻は、子供が居ない。
私が生まれる何年か前に子宮癌になってしまって、卵巣を全部切除したらしい。

子供を産めない悲しみに暮れているなか、彼女の夫の弟である私の父が蒸発。
おまけにその妻も行方知らずとなり、幼子の私一人が残った。
最初、引き取ろうと申し出たのは由美子さんの方だった。
それを、おばあちゃんが拒んだ。



という話を、小学6年生の時に聞いた。





おばあちゃんのお葬式の後、由美子さんは再度、「私たちの所に来ない?」と申し出てくれた。
それを断ったのは、他でもない私だ。



迷惑をかけたくない、という気持ちもある。

ただ、それ以上に大きかったのが、不信感だった。
「やっぱりあの親の娘」と言われるかもしれない。
「引き取らなければ良かった」と言われるかもしれない。


言われてもいないのに、そんなことばかり考えて、考えて。
笑顔で受け入れてくれる由美子さんの手を、払いのけた。





本当に、私は面倒で嫌な奴だと思う。