天使未満。


マスターの話によると、お母さんはタクシー乗り場まで行く途中、横断歩道の上ではねられたらしい。

意識ははっきりしていて、命に別状はないけれど、何か所か骨折している恐れがある、と。


「今からタクシーで芹香ちゃんの家に向かうから、とりあえず入院の準備をして待っていてもらえるかい?

洗面道具、替えの下着、タオルとバスタオル、最低限これだけあれば残りのものは後で何とかするから。

一人でできるかな?」


「大丈夫です」


「じゃあ、後でね」


受話器を置いてから、震えた。

命に別状はなくても、きっとものすごく痛いに違いない。

お母さんのことを考えて泣きたくなったけど、今はそんな場合じゃない。

急いで着替えて、マスターに言われたものを準備して、とりあえずデパートの紙袋に入れた。