「ここ、見てごらん。

教科書の背表紙の反対側、ぺらぺらめくる方。

『小口(こぐち)』って言うんだ。

辞書だとここにアルファベットや五十音が印刷されたりするよね。

どんなに綺麗な手で扱っても、何度も繰り返しめくっていると、ここが汚れてくる。

ここが綺麗だと、使われていないっていう証拠になっちゃう訳だ。

ほら、星沢さんのはまだまだ綺麗だろ?」


確かに、あたしの教科書は汚れていない。

渡辺先生のと比べたら、まるで新品のようだった。


「これから、どんどん汚れるはずだよね。

だって、星沢さんはA高校の可愛い制服を着た、モテ系女子高生になるんだからさ。

綺麗な白鳥は、水面下で必死に足を動かしてるだろう?

『勉強してないよ』って言ってるけど頭のいい子の教科書を、今度こっそりチェックしてみてごらん。

見えないところで努力しているかも知れないから」