正門の前に車を停めてもらい、そのままあたしは職員玄関へ直行するはずだった。
……まさか。
車から降りたあたしの眼に飛び込んできたのは、受験生の人だかりと、多分各中学校の先生や、塾の先生。
知っている子をみつけては、激励の言葉をかけている。
その人ごみの中で、ひときわ目立つ、大きなツンツン頭の男の人。
渡辺先生が、きょろきょろしていた。
あたしを探しているに決まってる。
声をかけようとしたけれど、全然聞こえないようなかすれ声しか出せない。
移したら困るから、人ごみには近づきたくなかった。
お願い、気づいて!
コートのポケットに入れていたうさぎのしっぽを握って、少しだけ渡辺先生に近づいた。



