あたしはこの人が好き。


ペンだこのある、大きな手で丸をつけてもらうのも。

豪快に大盛りのカツどんを食べる姿も。

時々見せてくれる優しい表情も。

人を差別しないあったかい心も。


どうしよう、受験前の大事な時なのに。

受験生が恋におちたら、受験も落ちるなんていう話も聞くのに。


こんな時にあたしの心は、言う事を聞いてくれない。


『だって好きになっちゃったんだもん』


そう、好きになっちゃったけど、この恋はきっと叶わない。

渡辺先生は、学校の先生になりたい人。

中学生のあたしと付き合うなんて、問題外だって思ってるよ……。


恋心と同時に、叶わないということも自覚してしまったあたしは、そのまま黙って渡辺先生の隣を歩いた。


渡辺先生も、静かだった。