「蛇口が壊れてるから、相当捻んないとお湯が出ないよ」
「わ、わかりましたから!!」
もう、彼が何を言っているのかさえ頭に入らない。
非常識だ。とか、セクハラだ。とか、罵ってやりたい言葉は山ほど浮かんでくるのに、肝心の声が出て来ない。
ただ、顔だけが火を噴いたように熱くて、外気にさらされた素肌に彼の視線が刺さっているようで、いたたまれなかった。
何故?彼は、こんなにも非常識な人間だっただろうか?と言うか、一刻も早くこの部屋から出てって欲しい!早く!!
「はや…っ…く、出てけぇッ!!」
私は渾身の力で叫び、手近にあった携帯を後ろ手に取り、彼に投げつける。
「…っぶな、」
それが功を奏したのか、一目散に扉を閉め危険を回避した彼に、二度も開けられぬよう、すぐさま扉に駆け寄りドアノブを掴んだ。
「…人のこと痴漢扱い?せっかく、親切に教えてあげようとしたの…‥」
「ノックぐらいして下さい!!」
扉一枚隔てて聞こえて来た不満そうな声に、私は怒鳴った。
本当に、非常識にも程がある!!



