メルト・イリュージョン



あの瞳に見つめられると…嘘がつけなくなりそうで、怖い。


それでも、やっとの思いでその呪縛から解放された安堵に、私は小さく息を吐いて空を仰ぐ。

藍色に澄み渡っていたはずの空は、いつの間にかオレンジ色の夕暮れに変わっていた。


「……外じゃん」

元は裏口だったそこには、簡易に作り据えられた小屋がある。


小屋と言っても、天井はビニール張りで雨露を凌ぐだけの構造になっていて、ベニヤ板を打ち付けて出来た壁は仕事があまりにも雑すぎて、よく見ればすきま風だらけだった。

どう見ても、素人作としか思えない。


…彼が、作ったのだろうか?


そんな人ひとり入ったらもうギュウギュウの室内を、更に小狭くしているのは…‥南国のリゾートを思わせる白いお洒落なドレッサー。

明らかに、彼以外のものと思えるそれに、私の眉間のシワも自然と寄る。



「…こんなの、ジーンには必要ないだろうに」

要らないものならば、早く処分してしまえばいいのに。


怖いもの見たさ半分、単純な好奇心半分で、私はそのドレッサーに近付く。