「……じゃあ、何か作りますね」

「名前」

「…え?」

自分自身に言い含めるように心の中で強くそう念じ、部屋の奥にあるキッチンに向かいかけた私は、思わず足を止めた。


「…名前、呼び名がないと不便でしょ?」

パソコンの液晶画面から目を離さないまま、彼が口早に告げる。


「エ…エラ、です」

緊張でカラカラに乾いた喉に力を入れて、必死に声を絞り出した。

彼に名前を言うのは、初めてだ。