嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】




好きな人には、彼女がいる。



これ以上のなにをもって、諦めれば良いの?


十分じゃない。


諦めなきゃいけない理由に、ぴったりだもの。


だって好きな人は―――私じゃない女の子しか、見ていないんだから。



「それでも、山本さんが諦められないなら。自分が納得いくまで、その気持ちを押し通しても良いんじゃないのか」



さらり、と。


いとも簡単に夜錐先輩が言ってのけた、それは。


…私がずっと、欲しかった言葉。



『っ、そう…ですかっ…?め、わく、じゃ…ない、のか…なぁっ…』



灘谷くんのことはもう、好きじゃない。


他の人のことを、好きになりかけてる。


そう、思ってはいても。


やっぱり心のどこかでは、灘谷くんが好きだと思ってる自分がいて。


でも諦めなきゃいけないんだって、何度も何度も言い聞かせて。



「山本さんが失恋した時以上に傷付かないなら、俺は良いと思う」




夜錐先輩。


そんなに優しい顔で、慰めないでください。





―――好きに、なりそうです。