嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】



あの灘谷くんを相手に、私はなんてことを言ったの!!


ば、バカだ…!



『あ、あのっ…!』


「……山本さんの言う通りだ」


『………………え?』



殺される覚悟で灘谷くんを見ると、彼は少しだけ口角を上げて笑っていた。


眼鏡の奥にある切れ長の瞳は、優しい色をしている。


…お…怒って…ない?



「言われてみりゃ、確かにな。山本さん、サンキュー!おっし、灘谷。一緒に花屋行くぞ!」


「わかりました。ありがとう、山本さん。助かった」


『は、はい!おや、お役に立てて嬉しいです!』



わあああっ…!


な、灘谷くんに“助かった”なんて言われちゃったよ!!


私がなにかお礼を言ってもらえることを、できる日が来るなんて!


緩んでしまわないようにきゅっと頬に力を込めて、私は心の中で飛び跳ねた。


良かった……良かった!


思ったことをはっきり伝えて、ほんとに良かった!



『(…灘谷くんも、私のこと少しは見直してくれたかな)』



諦めなきゃ。


そう、思ってるのに。




今朝はいなかった灘谷くんが、再び心に巣食っているのを感じた。