嘘とビターとブラックコーヒー 【短編】



『…っす、すみません!わ、私ってば…!』



先輩の呼び掛けにも気付かないくらい、ずっと灘谷くんのことを考えてました。


なんて言えるわけがないっ…!


羞恥心で真っ赤になっているだろう自分の顔を想像して、情けなさのあまり泣きそうになった。



「山本ちゃん、帰ろっか」



そんな私を慰めるように、柔らかな口調で花寐先輩が言った。


……寧ろ…ますます泣きそうです、先輩。


こくん、と無言で頷くと両脇の先輩が同時に立ち上がった。



「山本さん、家の方向は?夜道は危ないから、迷惑じゃなければ送るよ」


『…ええっ!?』




“夜道は危ないから”




『(ま、前っ……灘谷くんにも言われたセリフだ…!)』



バクバクと鳴り出す心臓の音が、先輩たちにも聞こえてしまわないか怖かった。


…もちろん、そんな貴重すぎる申し出を断るはずもなく。



『お…お願い、しますっ…』




私は再び、頭を下げた。