あなたは神を信じますか?

 占いや宗教にすがる人間は思いのほか結構いるもんで、ガキの頃は否定派だった俺も、今では出社前に朝のテレビ番組の占いコーナーは欠かさずに見ていくという始末だ。

 これは、ある女の影響だった。


      †††


「ねえ、朝のめざわりテレビ見た?」

 黒板の文字が見えすぎる自席に着いたばかりの俺を見て、開口一番出た声がそれだった。

「軽部さんがセクシーだった」

 豊穣な肉体に軽妙な語り口。まさに軽部さんはセクシーと言わざるを得ない存在だった。

「それ男のアナウンサーじゃん。ホモなの?」

「じゃあ、あれか。今日のにゃんこ。あのコーナーに出てた家の小学生の女の子のパンツが見えてた」

 録画しとけばよかった。

「ロリコンなの?ちがうよ、わたしが言ってるのはめざわり占いのコーナー!わたしの射手座は今日1位!キミ、星座なんだったっけ?」

「牡牛座」

「あ~、最下位だね!」

 嬉しそうに言うなよな、委員長様。

「占いなんて、興味ねえよ」

「ふ~ん。わたしは結構当たるんだけどねえ」 
 占いなんて、例えば同じ星座占いでも、テレビ番組によって全然結果が違うことがあるぞ。

 実は一回わざわざ、朝のテレビ番組をザッピングして見比べた事があるのだ。

 ……暇だな、俺も。

「まあ、占いなんて、当人の思ったように解釈すりゃいいんだよ」

 そんなもん、いちいち気にして生きていけるかってんだ。

「しかしそんなんだったら、お前ノストラダムスの予言とかも信じてんの?」

 世紀末を3年後に控えていた。

「あれはたぶん外れるよ~」

「都合の悪い事は信じないんだな」

「占いなんて、当人の思ったように解釈すればいいんでしょ?じゃあ、希望的な観測をしたいよね」

 もっともだった。

「でも、ちょっと心配かな~」





 だが、彼女のその心配も杞憂に終わる事になる。

 1999年の世紀末に恐怖の魔王などはやって来なかったし、俺はこうして無事に生きている。

 そう、俺は。