『僕はやり直すことを勧めた。けど彼は首をふって言ったんだ。「もう、いいんです。僕は十分に幸せでした。美麗が僕といるのが苦しくてあなたといるのが幸せなら、あなたといた方がいい。僕は彼女の幸せを祈っています…。だから…美麗をよろしくお願いします。」って…』










一条氏は 静かに息をはいた




『…それを聞いて負けた気がしたよ。美麗は僕を選んでくれた、嬉しかったのは確かだ。でも…きっと何年たっても美麗と潤さんはずっと互いの事を忘れられずに心の中で愛するんじゃないかって…ね。それはもう愛とかそういうものを越えた想いで…僕には踏み込んではいけない所なのかもしれないと思ったから…』





『一条さん…』





『…でもそのせいで、彼の娘さんにはつらい想いをさせてしまった。潤さんは美麗といれた時間があったけど、槌谷さんはそれが無かった…、僕が奪ってしまってね…。』











ふと気付いたら時計は深夜近い時間になっていた


フロントには人気がなくなってきつつあった






ぼうっとし過ぎたな…


みちるさんも心配しているかも…





携帯を確認しようとしたら電話が鳴った



一条氏からだった




「もしもし…神田ですが。何か…」


『夜中に済まないね、実は美麗の容態が急変して。いま病院にいるんだ…』



少し切羽詰まった声が電話越しに聞こえた



〈目線おわり…〉