それはまごうことなき“乳房”であった。

 だから俺は誰にはばかることもなくこう呟いたんだ。

「わぉ」

 いや。

 ちょっとまて。

 なんだこの状況は。

 俺は今、横になっている。

 枕にした腕越しに伝わってくるこの感触は畳だろう。

 そうだ。

 どこかの和室で俺は横になっている。

 で。

 目の前に大変やわらかそうな“玉”がある。

“たま”じゃない。

“ぎょく”だ。

 玉とは“宝”を意味する。

 それはどうでもいい。

 ともかくそれがあらわになっている。

 服を着ていないわけじゃない。

 このおふたつのものをお持ちのお方のお寝相がお悪いのだろう。

 要するにはだけている。

 で、下着を着けていないらしい。

 だからそれが、いや、それらがあらわになっている。

 あれだ。

 多分触ると“はんぺん”に良く似た感触だと思う。

 いやだからちょっとまて。

 なんだ、この状況は。

「ん、んん……」

 鼻にかかった甘い音に合わせて目の前のそれが身じろぐ。

 同時に俺の胸に湧き上がったのは官能的な感情とは程遠い、

(マズい――)

 すこぶる激しい焦り。

 焦らなければならない理由などこれっぱかりも心当たりがないのだけれど。

 いやしかしこの状況にいたるには何か理由があったはずだ。

 俺は冷静に。

 例え今この瞬間に“ケツ”に火が着いたとしても決して身じろぎひとつすまいと、かたく心に誓いながら冷静に。

 ただし目の前の宝物から目を離さずに。

 ゆっくりじっくりここにいたるまでのことを思い返し始めるのだった。