「とりあえず、あの橋を渡って3番街に向かう。それから4番街を目指して、5番街。」


ハイネは地図を片手に目の前にある橋を指差した。

…あの後、ロッダの実を食べ終わった私達はすぐさま森の奥へと進んだ。
すると、やがて見えてきたのは大きな峡谷。
その下に流れている川は間違いなくオーダ河なのだろうが…
この位置が上流なのか、もはやそれは川ではなく谷に等しい。

そして唯一そこに架かっていたのがハイネが指差す一本の橋。

橋は誰がどう見ても老朽化が進んでおり、とても安全には渡れそうにもない橋であった。


「……本当に、これを渡るの?」


思わず、足がすくんでしまう。
他に方法は無いのだろうか…と色々尋ねようとするけれど、ハイネの言っている事だ。

きっとこれしか方法が無いのだろう。


「これを渡るのが無理なら、もう3番街までは行けねぇな。どうする?止めとくか?」


自嘲気味に笑いながら私を振り向くハイネ。
どうやら本人も出来ればこの橋を渡るのは避けたいみたい。

…若干顔が引きつってるのが分かる。


「…落ちたら、命の保障は―…」


「無い。」


勿論即答で。

でも、こんな所でぐだぐだ言っている暇が無いのは十分承知の上。
ついに決心して、ハイネ、私の順に一人ずつ渡る事にした。

…ハイネが橋に足を掛け、両サイドにある頼りないロープを握る。
そしてゆっくりと慎重に…彼は一歩一歩渡って行った。

暫くして無事向こう側まで辿り着いたハイネは、私に来るよう合図する。


唾を飲み込んで、私もハイネと同じように足を掛け、ロープを持ち…
歩き出した。

音を立て、水が流れる川。
吹き上がる冷たい風…震える全身。


出来ればこんな体験など、したくは無かった…。