「そうねぇ、お願いできるかしら」

「はい」

「えっ、ちょっと待っ…明っ!」


慌てた私の言葉には耳も貸さず、明は問答無用で私を立ち上がらせる。

そのまま腕を引かれて教室の外へと連れ出された。

授業中の静かな廊下に2人の足音だけが響く。


「ねぇ明、私どこも体調悪くないし、大丈夫だから……教室に戻ろう?」

「………。」


無言ですか…。

何も応えてくれない背中はどこか苛立っているようで少しだけ怖い。

なんでだろう。怒ってる…のかな。

どうして?私が教室で泣いちゃったから?

でも自分でもどうして泣いてたのかわからないから、そこに怒りを向けられてもどうしようもない。

そもそも、なんで私は泣いてたんだろう?

なんとか思い出してみようとしたけど…やっぱりわからない。

先生に呼ばれて我に返るまで、自分が何をして何を考えていたのかが全く思い出せない。


「なんで…?」

「早和」


ポツリと小さく呟いたとき、私の腕を掴んで前を歩いてた明に低い声で呼ばれた。

同時に、聞き覚えのあるギィ…という錆びた音が鳴る。

そのまま数歩、手を引かれてたどり着いたのは、校内で一番空に近い場所。屋上だった。


「あれ?保健室に行くんじゃなかったの?」

「体調が悪いわけじゃないんだろ、わかってる」


手を離した明が、こちらを振り向きながらやっと応えてくれた。

でも、わけがわからない。

だったらどうして…


「早和」

「あき、ら…?」


硬い声音で名前を呼ばれて、少し驚く。

びっくりして見上げると、明の表情は声音と同じように、何故か今まで一度も見たことがないほど強ばっていた。