「……城さん、久城さん!!」

「…っ!あ、はい…っ!!」


ハッと我に返り、慌てて返事を返した。

数日前、学校は二学期へと入り、今は古典の授業中。

や、やばい…。先生に呼ばれても気づかないほどぼーっとしてたなんて……。

古典の原田先生は、おっとりのんびりとした、どこか可愛らしい年配の女性の先生なんだけど、実は怒るととっても怖いの。

だから古典の授業は気が抜けない。……はずだったのに、なんでぼーっとしちゃったのかな、私っ!

内心焦っていると、まだぼんやりする視界に、眉を寄せた先生がこっちに近づいてくるのが見えた。

怒られちゃう…よね。当然か。

ぼーっとしてた私が悪いんだからしかたない。反省反省。

それでもやっぱり先生に怒られるのは怖くて、そろりと目線を上げて、密かに怒られる覚悟を決めた。

………ん、だけど。

見上げた先の先生の顔は怒っているのでは無く…どちらかというと心配そうな顔。

え?なんで?

思わずきょとんとして先生の顔をまじまじと見つめてしまう。

すると先生は心配そうな表情のまま、私の顔を覗き込んで頬に温かい手をあててきた。


「久城さん、大丈夫?どうして泣いているの?」

「…え?」


全く想像もしていなかった言葉に、思わずぽかんとしてしまって、間抜けな声が出る。

え?なに?どういうこと?泣いてる?

びっくりして自分の目元に手をやると、確かに濡れている。

ええ!?なにこれどういうこと!?

私、泣いてるの?なんで!?


「体調が悪いの?それとも何かあったの?保健室に行ったほうがいいかしら…」


さっきよりさらに心配度が増した顔で真剣にそう言ってくれる原田先生。

や、優しい…。

けど、わ、私はまだ混乱中なんです…!

体調は悪くないし、何かあったといえばあったけど…でも泣くようなことじゃない。

本当に、自分自身のことなのになんで泣いてるのかわからないの。

わかんないけど、こんなことで先生に余計な心配をかけてしまうのは申し訳ないよ!


「せ、先生っ!大丈夫です、なんでもないんです。授業、続けてください」


目に溜まっていた涙を拭って、先生ににこっと笑ってみせた。


「でも…」


それでも心配そうな表情を崩さない先生をどうやって説得しようかと悩み始めたとき。


「…俺が連れて行きます」


ふぅ、とため息とともに、明がそう言った。