ハンカチをしまって、明の手を私の両手で包みこむ。


「…明のケガが、早く治りますように」


どうか明が、酷いケガをしませんように。

どうか明が、いつも健康でいますように。

そして…

どうか明が、幸せでいますように。

そんな願いを込めて、お手当をする。

これは昔私が小さい頃にお母さんに教えてもらったことなんだけど…

お手当をするときには、右手から気が出て左手に吸収されるらしい。

ケガをしている所やどこか悪い所に両側から手を当てると、当てた所に溜まっている悪い気が右手から流れ出た気と一緒になって左手に流れ込んでくるんだって。

だから明がケガした時には必ずお手当をするようにしているの。


「…いつも悪いな」


そう言った明に、クスッと笑って首を横に振った。

しばらくして、明から手を離す。



カサッ…

「ん?」


離した時に、何かが下に落ちた音がした。

落ちたものを拾い上げてみると、それは…


「あ…。さっきの名刺。無くさなくてよかった…」


先ほどルカ君のお母様から頂いた名刺。

ホッと息をついて、もう落とさないように名刺を両手で包む。


「それ、どうしたんだ?」


私が大事そうにしているのを不思議がったのか、それとも単に私が名刺を持っているのを不思議がったのか…明が尋ねてきた。


「さっきね、突然いなくなったの…中庭から子供の声がしたからなんだ。フランス語で、『ママ』って、泣いてるみたいだったの」

「それで…」

「うん。その子と一緒にお母さんを探そうと思ったんだけど、会場に戻る途中にその子のお母さんに会ってね」


あの時明もいたら、ルカ君のお母様に見惚れちゃったんじゃないかな。

だって本当に綺麗で、素敵な方だったもん。


「その時、その子…ルカ君って言うんだけど。ルカ君のお母様に『何かお礼をしたい』って言われちゃって。『私は何もしてませんから』って断ったら、名刺を下さったの。『何かあったら電話してくださいね』って言われちゃった」