「さて。戻るか」

「うん」


私が泣きやむまでずっと頭を撫でていてくれた明が、手を差し出す。

なんとか微笑んでその手を取ろうとして…。


「…あ。明…ケガしてる」

「え?…あ。本当だ」


差し出している右手に赤い筋が刻まれていて、血が流れだしている。

私が慌ててハンカチを取り出していると、「早和を探している時にでも切ったかなぁ」とのんきな声が聞こえてきた。

なんて緊張感のない口調なんだろう…。

そう思ったら、なんだか笑えてきた。


「何笑ってんだよ」

「や、なにも…」


そう言いながらも、声が震えるのは止められない。

やっと見つけたハンカチで明の傷から流れ出す血を拭いた。

本当は洗った方がいいんだけど…このあたりに綺麗な水は見当たらない。


「どうする…?会場に戻ってお手洗いとかで洗ったほうがいいよね…?」

「いや、いいよ。すぐに血は止まるだろうし」

「でも…」

「いいから」


う…。言いきられると何も言えなくなっちゃう。

明は結構頑固だしなぁ…。

一度言いだしたら聞かないもん。


「…わかった」


ふぅ…とため息をついて、苦笑しながら明を見上げた。

対する明も、私が何を思ったか分かっているようで苦笑している。


「ごめんな」

「ううん。明が頑固なのは今に始まった事じゃないし」


そうこうしているうちに何とか血は止まってくれた。

今はこれ以上出来る事は無いみたい。

手当て出来る道具も何も持ってないもんなぁ…。

…しょうがないか。


「ごめんね。明。私今何も持ってないから…これで我慢してね」