まだ、俺がちからを失う前。
ひかるや皆が生まれる前。

俺は自由だった。






俺が生まれた場所。
天上と呼ぶにも、地上と呼ぶにも相応しくない、狭間の場所。



そこに、“無”として生まれた。



何を面白がったのか、俺を見つけた天の使いは、俺に全てを与えた。


“無”は全てを吸収する。
与えられたモノは自分のモノとし、与えてくれた者を師とした。



天上で、ちからも、心も、知恵も手に入れた。



自由で豊かな日々は、やがて、退屈へと変化していった。



感情を手に入れたばかりの、赤ん坊のようだった俺は、好奇心の塊でしかなかった。


天上のモノに飽きると、次に目を向けたのは地上だった。



師に、“天上から出てはならぬ”と言われていたにもかかわらず、俺は地上へ降り立った−…。









地上には天上にないものに溢れていた。


機械や何か固い建物、人々の格好は目がチカチカしてくる。


驚きや不安、居心地の悪さと共に、
ひどく胸を掻き立てられた。


ワクワクした。
感激した。



人の目には写らなかったが、人の行動の中でも、家族の戯れとやらには一段と目を惹かれた。


俺は、家族なんてない。



愛なんて、知らない。
しらない。
シラナイ。




俺は、悲しかったのだろうか。

いいや、きっと解らなかった。
俺は、認めることができなかった。




自由で、全てを持っていると思っていたから。

……ただ、自惚れたんだ。
無だった筈が、今はこんなに大きなちからを持っている。





羨ましかったんだ。
笑顔というものが。

眩しかったんだ。
美しくて、温かくて、
俺には、どうやっても、手に入れられなかった。





“彼女”は、俺と目を合わせて一言、言い放った。




「貴方、泣いてるの?」



涙が落ちているワケでも、俯いているワケでもなかった。




ただ、心は欲していた。
眩しい『アレ』に、身を埋めたかった。