ひかるがこの家に来た日。
樋月のこの家は、ボロボロだった。


見た目じゃない。
三人の心には深い傷ができていた。



ひかるが来る一年ほど前、大黒柱の陽助(ようすけ)さんが交通事故で亡くなった。



気さくで、いつも家族の真ん中にいた。
おっちょこちょいな、おばさんこと百合子
(ゆりこ)さんも、陽助さんを頼りにしていた。



いつものように家を出た陽助さん。
道路に飛び出した幼児を見るなり、正義感の強さからか、救いに向かった。





彼の人柄の伺える最期だった。




「貴方じゃなくてよかったじゃない!
他の誰かで…!どうして貴方なのよ!」



病院の霊安室で、陽助さんの亡きがらに泣き叫んだ百合子さん。


その後、崩れ落ちるように放心状態に陥った。





わがままな弟を持っているからか、いつも大人びていた長男の森也は、今だかつてない精神の揺らぎを掻き消すように、高校受験の勉強に溺れた。





いつもはウルサイ哲志も今回ばかりは黙り込み、二人の顔色を伺い続けた。
結果、心を閉ざしたままの内気な少年へと変化した。








絶対に揺らぐことのない幸せだった筈が、樋月家はことごとく崩れ落ちた。




このまま、一生を過ごすのか…?
そんな不安が三人を襲う。






事故から十ヶ月と数日がたった頃、
家族は崩れたまま、一人の、身寄りをなくした少女を迎える。