母親……。
あたしはその言葉は聞きなれない。


あたしの中で、母親の存在はとっくにないから。


あたしを産んで、入れ替わりで死んだ。


だから母親という言葉を聞くたび怖くなる。


由衣さんにも、母親は居なくて父親しかいない。


だから母親というものを見たことがない。



そもそも家族というものは、あたしには似合わない。



父親なんていないようなもの。


家族なんてとっくに捨てた。




だから、池上という家族…沙知絵という母親に会うのは怖い。



どういう顔をしていいのかわからない。



家族という居場所にあたしが居ていいのか…



凄く怖いんだ。



怖くて体が動かない私を見て池上仁はそっと手を握った。