春風が通りぬけるとき。



「…そう。 貴方はちゃんと恋をしてるのね」

「……え?」


僅かに眉を潜める。


「あぁ、違うわ。 井上さんの気持ちを否定してるわけじゃなくて…、なんて言えばいいのかしら」


先生は困った様に目尻を下げた。


「人によって、一目惚れだったりとかで好きになる理由は確かに違うの。

でも恋心を抱く気持ちは皆共通してるはずよ」


彼女は説明口調で丁寧に話す。

手が宙を時々彷徨いながらも、目だけは絶対に逸らそうとはしない。


「…貴方はちゃんと苦しんでる。それは、恋というのを知って恋をしている証拠」

「証拠…」

「恋は、楽しいもので終わらないの。苦しんでこそ恋愛をしてると初めて言えるんじゃないかしら」


少なくとも私はそう思うわ、と言い切った瞳は真帆を映してはいなくて、代わりに何処か遠い場所を切なげに見つめていた。