春風が通りぬけるとき。



「もうすぐ時間になってしまうから」

「あ…」


保健室にある時計は確かにホームルームが始まる時間のもう五分前になっていた。


「井上さん、教室行けそう?」

「……」

「無理そうなら、此処にいてくれて構わないけれど」

「…具合が悪くなくても、ですか?」


瞳を揺らし見つめてくる彼女に、困ったように雪原先生は笑う。


「そうねぇ。 体調が悪いわけではないのなら、本当は教室に戻らなくちゃいけないんだけど」


(……じゃあ、やっぱり)


少女がどんどん気落ちしていくのが手に取る様に理解出来てしまい、思わず苦笑した。


「まぁでも、今日は特別」

「え…?」


下げていた顔をゆっくりと上げる。

すると目に映るのは、まるでお母さんのような温かさを思わせる様な笑顔で。


それが何処か、懐かしく感じた。