達也が教室の扉を勢いよく開けると、クラス中の視線が達也に向けられた。

午後一の化学の授業が始まっていて、遠近両用の眼鏡を鼻にずり下げた老教師が、眼鏡越しに達也を睨んだが、それらに一切構う事なく、達也は教室の後ろへ行き、瑞希のロッカーを探した。

「池上…君?」

達也は教師の呼び掛けを無視し、瑞希のロッカーを見つけると、中からきちんと畳まれたえんじ色のジャージを取り出した。

それを持って無言で教室を出ようとしたら、「待ちたまえ!」と教師に後ろから呼び止められた。

急ぎたいのだが、さすがに教師を無視しきれないと思い、達也は立ち止まって教師を振り向いた。

「何かあったのかね?」

「はい、実は……」

と言い掛けて、(これはいい機会かもしれない)と達也は思った。