いったん部屋を出ようとした瑞希だが、クルッと振り向いて達也のすぐ目の前まで来た。

そして上目遣いで達也を見上げると、そっとその目を閉じた。

(ん? ハイネを読んで、その気になったのか?)

「い、いいのか? しても」

「うん…」

達也は瑞希の肩を持ち、瑞希の小さくて、柔らかそうな唇に目をやると、緊張と期待で胸がドキドキした。

すると瑞希の唇が開き、甘い吐息と共に、「痛くしないでね?」と囁く声を聞いた。

(“痛くしないでね”か…。こういうの、前にもあったっけ?)

その既視感が一瞬気にはなったが、達也は考えるのを止めた。
そして、瑞希の少し開いた唇に、自分のそれをゆっくりと近付け、そっと触れさせた。