「美紀。」




呼ばれて

振り向くと遠夜がいた。




「ん?何?」




「本番前に

ピアノ触っておいてって

監督が言ってたよ。」





「あっ、

そうだよね!

了解!了解!」



そうそう!

練習しなきゃね。




音楽室に

置かれた一台のグランドピアノ。




年期を感じるけど、

大事にされてるみたいで凄く綺麗。



周りは

バタバタしてて、

忙しそうだけど。



椅子に座って、

一息つくと、

手首をくるくる回した。




失恋した美由は、

無意識に『メロディ』を

切なく淋しく弾いてしまう。




切なく淋しく…。



気持ちを切り替えて。





”トン”




隣りに

パイプ椅子が置かれた。




そして、

そこに、


遠夜がニコニコしながら座った。





「遠夜?」




首をかしげると、

遠夜はいつもの笑顔で言った。






「美紀のピアノ、

まだ聞いた事が無かったから。

そばで聞いてていい?」




「うん、もちろん!

むしろ、聞いててくれる?」




遠夜が側にいてくれると

安心する。



安心して、

安らげる『メロディ』。



遠夜が聞いてくれるなら、

そんな気持ちで弾いてみようと思った。




そっと

鍵盤に指を乗せて、

息をたっぷり吸って。



『メロディ』を弾き始めた。



貴方の為にあなただけの為に。



恋とか愛とか、

よく分からないけど、


遠夜と一緒に歌って、

自分の為に、


そして

人の為に歌うことを知った。





聞いてる人が一人でも多く、

幸せになりますように。


伝わるかな?




…伝わっていると、いいな。