《完》オフィスに鍵をかけて 〜キケンな部下と秘密の恋〜

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2月に入って、企画商品の
告知とネット予約が開始した。




ここまで来るとあたし達の
仕事はだいぶ落ち着いて、
後は状況確認とデータ
集計的なものだけになる。




そして、入社後1ヶ月
経った瑞樹クンの研修も終了。


あたしも晴れて、教育係の
お役御免ってわけ。




「……とはいえ、状況は
あんま変わんないけどね……」




ホワイトデー企画のチーム
メイトとして、3月中は
一緒に仕事するわけだし、
席も隣同士のまんまだし。



_(やっぱあたしは、瑞樹
クンと絡まないわけには
いかないのよね……)




「ん? 
なんか言った、莉央さん?」




ポソッと呟いた独り言を
耳ざとく聞きつけて、
瑞樹クンが尋ねてくる。




「何も言ってないわよ」




てゆーかあたしの独り言に
いちいち反応しないでいいって。







この間のB会議室での一件
以来、あたしの瑞樹クン
への態度はそっけないも
いいとこだ。



_別にいまだに怒ってたり
なんかしない。




むしろ瑞樹クンに振り
回されたせいで、課長の
ことであんなにふさぎ
込んでた気持ちが、少し
だけ軽くなって。




今となってはあれも全部、
彼の計算だったのかな――
なんて思ってるくらい。





だけど――やっぱダメだ。




あれ以来瑞樹クンを見ると
……ついつい、唇が触れ
そうなくらい近づいた
あの瞬間を思い出す。




バカみたいに意識
しちゃって、それを隠す
ためにそっけない態度に
なって……。



_「お、莉央さんの卵焼き
うまそーっ。

1個ちょーだい!」




隣の席からにゅっと
割り箸が伸びてきて、
お弁当の卵焼きを奪われた。


――こっ、こいつはっ。




(……ったく。当の本人は
全く気にしないで、この
調子だってのに――!)




ああもう、一人でドキドキ
してる自分がバカみたい!!




「何すんのよっ!

それ、大好きだから最後に
とっといたのにっ」



_眉を吊り上げて訴えると、
瑞樹クンは意表をつかれた
様子で、




「え、あ、そーだったの?

ゴメン……食べちゃった」




「もうっ、バカッ!

食べ足りないんならもっと
一杯買って来なさいよっ!!」




瑞樹クンはお昼はいつも、
外食とか買ってきたもの。


今日も、コンビニの
お弁当を食べてた。




その空のケースを指差して
怒鳴るあたしに、瑞樹
クンはちょっとへこんだ
顔をして、



_「別に足りなかった
わけじゃないけどさー。

単純に、莉央さんの
卵焼きが食べたかったんだよ。

オレ、手作りの味とか
飢えてんだもん」




「へ……?」




手作りの味に、飢えてる?




ものすごく唐突に、
あたしはあることに気づいた。




(そう言えば聞いたこと
なかったけど……。

瑞樹クンって、彼女とか
いないのかな……?)




てゆーかこんなにカッコ
イイのに、フリーとか
ありえないと思うんだけど。



_手料理作ってくれる女のコ
なんて、どんだけでも
いるんじゃないの……?





……聞いてみたかったけど。




やっぱりその質問は飲み
込んで、あたしは代わりに
全然違うことを言った。




「知らないわよ。

卵焼きくらい、自分で作れば」




それを聞いた瑞樹クンは、
大ゲサにショック受けた
顔をして、沙織さんに
『莉央さんが冷たーい!』
なんて泣きついてる。



_あたしは無視してサッサと
お弁当を片付けて、それが
終わるとピシャリと
瑞樹クンに言い放った。




「くだらないこと言って
ないで、さっさと出かける
用意しなよ!

1時になったら先に
行っちゃうからね!?」




今日も、午後からは提携
企業なんかへの挨拶まわり。




のんびりしてる暇なんて
ないんだから。



_その後一緒に会社を出て
3社ほど提携企業を訪ね、
外まわりは終了。




最後は地下鉄に乗るべく
駅までの道を歩いてる時、
いきなり瑞樹クンが、




「はーっ、どこもかしこも
バレンタイン一色だなぁ〜」




通りに建ち並ぶビルの
ウィンドウを眺めながら、
そう、感心とも呆れとも
つかない声を漏らす。




「そりゃそうでしょ。

もう、バレンタインは
来週だもの」



_今や『逆チョコ』なんて
言って男のコからも
プレゼントしたりと、
何でもアリになってるしね。




「どこもイベントに便乗
して売上伸ばそうって必死
なんだから、ハデにもなるわよ」




サラッと言うと瑞樹クンも、
『ハハッ、うちもそーだもんね』
と笑った。



そして続けて、ホントに
何気ない口調で、




「バレンタインチョコかぁ〜。

今年はもらえるかなー」



_(…………は?)




ツッコミどころがあまりに
多過ぎて、あたしは思わず
足を止めちゃう。




――一体どーゆーつもりで
言ってんの、このコ?




瑞樹クンほどのイケメンに
チョコが集まんないわけ
ないじゃない。


実際、部の後輩だって
あげる気満々でかなり
張り切ってるし。




それでも、あえて催促の
つもりで言ってんのかな?




(それとも……もしかしたら)



_本命チョコのことを
言ってんのかな、って
つい思ってしまった。




(ダメだ――また気に
なり出してきた。

せっかく外まわりで
忘れてたのにぃ〜っ)




なんかもう、これ以上
あたしがモヤモヤしてん
のもバカみたい。




(えーいっ、聞いちゃえ!

この会話の流れなら、別に
不自然でもないもんね)




あたしはさりげなさを装って、




「義理チョコなら会社で
山のようにもらえると思うけど。

てゆーか、チョコくれる
彼女とかいないの?」



_すると、瑞樹クンは同じく
まるで世間話でもする
ような軽い口調で、




「彼女? いないよ。

オレ甘いのも好きだから、
彼女いたらチョコケーキ
とか焼いて欲しいんだけどな〜」




「……へぇー。

意外ね、モテそうなのに。

てゆーか元・人気ホスト
なのになんで?」




「なんでと言われても。

ホストって、お客との
マジ恋愛は禁止なの!

それにオレだって
やみくもに彼女欲しい
わけじゃないしさ」



_――それもそっか。


ちょっと失礼な言い方
しちゃったな。




「ゴメン。変なこと言って」




すぐに謝ると、瑞樹クンは
首を横に振って、




「別にいいけどね。

ホストだなんて聞いたら、
無差別に女のコと遊び
歩いてるって思ったって
仕方ないし」




苦笑ギミに、そんなことを言う。




たしかに偏見かもしれない
けど、そーゆーイメージは
あるかな。



_あたしはホスト遊びなんて
したこともないから、
ホントのところは何も
知らないけど。




でも――そうだよね。


別にみんながみんなそうだ
なんてことないはず。




現に瑞樹クンはそんな
タイプには見えないもの。




「……なんで、ホストの
仕事してたの?」




立ち入り過ぎかなって
思ったけど、思い切って
聞いてみた。




これも、彼が元ホスト
だって知ってから、ずっと
聞きたかったことだ。



_瑞樹クンはちょっと驚いた
顔をしたけど、不快に
思った感じはない。




ただ、どうしてかほんの
少し寂しそうな笑みを浮かべて、




「んー。そりゃモチロン、
給料がいいからだよ」




って、答えてくれた。




「――お金が欲しかったの?」




「そっ。借金返すためにね」




「借金!?」




あたしは思わず大きな声を
あげちゃう。



_往来だって思い出して
あわてて口を押さえる
しぐさを、瑞樹クンは
クスッと笑って、




「正確に言うとオレのじゃ
なくて、その時の彼女の
なんだけどね」




(彼女の借金を、瑞樹
クンが返してあげようと
してた……?)




込み入った話の内容に、
あたしはソッコー好奇心で
質問したことを後悔した。




「ゴ、ゴメン!

あの、いいよ、別に詳しく
教えてくれなくて」



_だけど瑞樹クンは、
『ウウン』と首を振って、




「いいんだ。

オレ、自分のしてきた
ことは、どんな失敗でも
隠したくなんかないからさ」




そう言って、前を見たまま
ゆっくりと話し始めた。





「18の頃からつき合ってる
彼女がいてさ。

普通の子なんだけど、顔に
少しだけソバカスがあったんだ」




――ソバカス?




借金の話から、また意外な
言葉が飛び出してきて
ビックリする。



_「オレはそんなの全然気に
してなかったんだけど、
軽い冗談のつもりで、時々
からかったりしてた。

彼女は怒った顔してすねる
だけだったし、気にも
止めてなかったんだ」




そこで瑞樹クンは一度
言葉を切って、あたしの
方を見た。



そして再び、




「だけど実は――そいつ、
オレが思ってる以上に
そのこと気にしてたんだ。

ハタチになって少しした頃
怪しいセールスにつかまってさ。

美顔器だ化粧品だって、
バカ高い商品山のように
売りつけられて、ローン
組みまくって……」



_その当時の感情を思い
出したのか、瑞樹クンの
顔が悲しそうにゆがむ。




あたしもキュッと胸が
しめつけられた。




「オレに打ち明けてくれた
のは、返済しきれない
くらい借金が増えた後だった。

……ショックだったよ。

彼女がそんなに悩んでる
ことにも気づかないで、
平気でからかってた自分が
サイテーだって思った」




「――だから、代わりに
自分がその借金を返そう
って思ったの?」



_「そーだよ。

そもそもオレが原因なんだ
から、当然でしょ?


でも当時のオレはただの
フリーターでさ。

てっとり早く金稼ぐって
いったら、ホストくらい
しか思い浮かばなくて」




それから瑞樹クンは、
彼女にも説明して、すぐに
ホストの仕事を見つけた。




数ヶ月後には人気が出て
きたおかげで、1年も
かからず全額返済できたらしい。



_「だけど皮肉なもんでさ。

仕事が忙しいせいで、
彼女と会う時間はしだいに
減ってって。


それにやっぱ、オレが
ホストなんかしてんの
不安だったんだろーな。
マジメな子だったから。


いつの間にか気持ちが
すれ違ってて、借金返し
終わった数ヶ月後には
彼女とも破局したよ」




「えっ!? そ、そんな……」




それじゃあ何?


瑞樹クンは高額な借金を
肩代わりして、それで
終わりってこと!?



_あたしはア然としちゃった
けど、瑞樹クンはその事は
気にしてないんだって言った。




「人の気持ちなんて、なる
ようにしかならないんだから。

別にオレ、そのことで
彼女に恨みなんて持ってないよ」




「瑞樹クン………」





……ホントに、あんたってコは。




バカがつくくらいに、
お人よしなんだから。





なんだかあたしはおかしく
なってきた。



_辛い思い出のはずなのに、
最後には胸を張って笑顔で
そんなふうに言える瑞樹クン。




――ホントに、キミはすごいよ。




3つも歳下なのに、あたし
なんかより全然すごい。





「だいじょーぶ。

きっとそのうちできるよ、
新しい彼女」




気づくとあたしは、瑞樹
クンを励まそうとするかの
ように、明るい声でそう
言ってた。




唐突なセリフに、瑞樹
クンは『え?』と目を丸くして、




「何それ? 
なんか根拠あんの?」



_「根拠?

根拠なんてほどのもんじゃ
ないけど」




キミみたいなコに、そう
長く神様はイジワル
しないと思う。


ただそれだけだけどね。




「なんだよそれー。

『アタシが彼女になって
あげるワヨ!』って
パターンかと思ったのに〜」




「……はっ!? 

な、なに言ってんの、んな
ワケないでしょっ。

てゆーか気持ち悪い喋り方
しないでよねっ!!」



_大ゲサなシナを作って
かなりキモい彼の背中を、
あたしは平手で思い切り
バンッと叩いた。




「ったーーーーっ!

り、莉央さん、それ
力強すぎでしょ!?」




顔をしかめて文句を
言ってくる瑞樹クン。




そんな彼に胸のドキドキを
悟られないように、




「そんなことより急ご!

また残業になっちゃうわよ!」




あたしは小走りで、
木枯らしの吹く通りを
走り出した――…。





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