☆☆☆☆☆
「……ってわけでだいたい
月1回のペースで新作を
発表してるから、仕事の
流れはパターン化してるわ。
デザイナーチームが、まず
大量にデザインを用意する。
あたし達商品企画はそれを
吟味して、実際に発売する
までの計画を立てるのが仕事よ」
――二人きりのB会議室で。
とりあえずあたしは
マジメに、柳瀬クンに
仕事の流れをレクチャーしてた。
_柳瀬クンはいたって普通に
話に集中して、『ハイ』
とか『へぇー』とか言い
ながら、聞いてくれてる。
正直やってみると意外に
講師がつとまってて、
自分でもちょっとビックリ
してたりして。
まぁ、ダテに5年も働いて
ないってことかな。
そんなこんなでマンツー
マンでレクチャーを
続けて、ふと気づくと
もうお昼だった。
_「あ、もう休憩かぁ。
――よし。今日は勉強は
ここまでにしよっか。
そんで午後からは、
オフィスの方に行ってみよ」
座って勉強ばっかしてても
多分ピンとは来ないもんね。
それに、疲れちゃうし。
資料を片付けながらそう
話すあたしに、柳瀬クンは
しっかりと頭を下げて、
「ハイ。
どうもありがとうございました」
って、礼儀正しくお礼を
言ってくれる。
_「――――/////」
なんかさっきから、こんな
カッコイイ子に丁寧な挨拶
連発されて、正直照れるな。
しかも見た感じチャラそう
だから、意外さもあって
よけいに戸惑っちゃう。
「い、いいよそんな
お礼なんて////」
ドギマギしながら言うと、
柳瀬クンは『え?』って
顔をして、
「でも、オレの講師して
くれたわけだから。
やっぱ、『ありがとう』
でしょ?」
_「ま、まぁそうなんだけどさ。
でもホラ、あんま
かしこまらなくても。
うちって、けっこう
フレンドリーな会社だから」
「え、オレ、そんなかしこ
まってる感じします?」
マジメな顔で聞き返され
ちゃったんで、あたしは
さらにあわててフォロー
するように、
「いや、えっと、別に悪い
ことじゃないんだけどね
その――とにかく言いた
かったのは、必要以上に
気をつかわなくていいよ、
ってこと」
_なんとかそうまとめると、
柳瀬クンは一瞬キョトンと
した顔をしたけど、すぐに
それを笑顔に変えた。
「わかりました。
オレの方こそすいません。
オレ、前職がわりと体育会
系だったんで、たぶんその
ノリがしみついちゃってん
ですよね」
「あ、そうなんだ……」
それはちょっと意外な
発言だった。
_体育会系って言ったら、
やっぱ肉体労働とか?
こんなにイケメンで
キレイ系で、全然そーゆー
イメージじゃないのに。
ちょっと、
『何してたの?』なんて
聞いてみたくなったけど――
さすがに会って数時間で
突っ込み過ぎかなって
思って、やめといた。
代わりに曖昧にほほ笑んで、
「若いのに礼儀正しくって
スゴイね。
まぁ部長にはそのままが
いいかもだけど、あたし
とかにはもっと普通でいいよ」
_すると、柳瀬クンは照れた
ように笑って、
「別にスゴクはないですよ。
てゆーか“若いのに”って――
松嶋センパイとたいして
変わんないんじゃ?」
「えっ!!?」
おっと。
まさか歳の話になだれ
込んじゃうとは……なんか
逆にあたしが突っ込まれ
ちゃってんじゃん。
しかも“変わんない”
って、一体あたしのこと
いくつだと思ってんだろ??
_「変わんない……ことは
ないでしょ。
あたし、新人で入ってくる
ような歳じゃないもん」
「イヤ、オレだって中途だし。
んじゃ、いくつなんですか?」
「えええっ!?////」
ス、ストレートだなぁ(汗)
そーゆーキャラなのかしら。
「25だけど……」
ちょっと迷ったけど、隠す
のも歳を気にしすぎてる
みたいで嫌だし、正直に答える。
_「そっか。オレは22です。
松嶋センパイ、25には
見えないですね。
同い年くらいかと思ってた」
「そ、そう? ありがと……」
どこまで本心かわかんない
けど、とりあえず若いって
言ってくれたわけだし
お礼言っとく。
にしても22――3歳年下か。
やっぱ若いんじゃん。
3歳差とはいえ、まだ
大学生でもOKな男の22歳と
OL5年目の女の25歳じゃ、
けっこうその差は大きい。
_そんなことを考えてたら、
すっかりオバサンくさい
自分の発想にむなしく
なってきた。
あたしはそれ以上考える
のをやめて、気を取り直す
ように声を張り上げる。
「――とにかく、休憩にしよ!
お昼は持って来た?」
「イエ、ぜんぜん」
「そっか。
あたしはお弁当だから中で
食べるんだけど……」
_「あ、そんじゃオレも
なんか買って来ます」
柳瀬クンはニコッと笑って
立ち上がった。
「そう?
それじゃ、あたし達の
オフィスわかる?」
「わかりますよ。
朝、宇佐美課長が教えて
くれたんで」
そうして、あたし達は
オフィスでまた合流する
ことにして別れた。
先に会議室を出てった彼を
見送って一人になると、
自然と長い息がもれる。
_「……な、なんか疲れた……」
緊張がとけたせいか、
なんかイッキに疲労が
押し寄せてきた感じだわ。
研修なんて慣れない上に、
生徒はあんなイケメン君
なんだもんなぁ。
これは、いろんな意味で
これから先が思いやら
れるぞ……。
☆☆☆☆☆
_ ☆☆☆☆☆
数分後の我が《ストロ
ベリーガールズ》の
オフィスは、ハッキリ
言って騒然となってた。
理由はもちろん、事前に
なんの報告もなかった
新人の登場、なんだけど。
ここまで騒然となるのは
説明するまでもなく、その
新人が若くて超イケメンな
男のコだからだ。
「マジビックリしたぁ!
まさかうちの部に男の人が
入ってくるなんてぇ〜」
_「ホンット!
決まってたんなら課長も
昨日教えてくれたらいい
のにね!!」
「で、柳瀬クンはどーゆー
仕事するんですかぁ?
なんか新しいことやるの!?」
後輩達が女子高生みたいな
ハイテンションで質問
攻めにしてて、柳瀬クンは
ろくにご飯も食べれてない。
さすがにかわいそうに
なって後輩を注意しよう
かと思ったら、それより
一瞬先に彼女達に声がかかった。
_「ちょっとみんな、
うかれるのはわかるけど
いい加減にしな。
柳瀬クン、困ってるでしょ」
苦笑混じりにさとす声の
主は、チーフの沙織さん。
やっぱ沙織さんはこういう
ときも大人だな。
いいお姉さん分である
彼女に言われると、みんな
素直に『はぁい、すいま
せーん』って謝る。
そして、今度は幾分
落ち着いたテンションで、
「けど、いいなぁ莉央さん。
これから1ヶ月もこーんな
新人さんの教育係なんだぁ」
_「え!?
い、いいなぁってなんでよ!?」
あたし、別にやりたくって
やるわけじゃないンだけど!?
「えー、いいじゃないですかー。
女ばっかの部署に配属
された、いわばオアシスを
独り占め♪」
「ウンウン。
あたしが莉央さんと同期
だったら、部長にあたしが
やる! って言っちゃうかもー」
「はあっ!?
あんたら何言って……」
_まったく、ヒトゴトだと
思って好き勝手言っちゃって。
こっちは代わってもらえる
なら代わって欲しいってーの!
けど、さすがに本人の
手前そこまでは言えないんで、
「いいとかよくないの
問題じゃないでしょ!
仕事なんだから!」
ちょっとキツい口調でそう
言って、後輩達をあしら
おうとする。
_だけど後輩も簡単には
引き下がらず、
「そりゃー仕事だけどぉ。
でも二人っきりで研修
してるうちに親密になって……
気づくといつの間にか――
みたいなっ!?」
言った直後後輩はキャーッ
と叫んで、隣の同僚と手を
握りあって『ヤダー!』
とか騒ぎ出した。
「バッ、バカ!!
そんなことあるわけないでしょ!
妄想もいい加減にしなよ!」
_親密になって、いつの
間にかどうにかなっちゃう??
あたしが、この柳瀬クンと??
ンなことあるわけないっての!
そんなのは、もう――……。
……混乱しかけてた
あたしの耳に、そのとき
ふいにクスクスッて笑い
声が聞こえてきた。
ハッとして見ると、今まで
黙ってやり取りを眺めてた
柳瀬クンが、唇に手を
当てて小さく笑ってる。
_「―――え? な、なに??」
彼が何を笑ってるのか
わかんなくて、ためらい
つつも尋ねると、
「イヤ……ごめんなさい。
なんか松嶋センパイの
反応がおもしろくて」
柳瀬クンは必死で笑いを
噛み殺しつつ、そう言った。
(はあ? おもしろい!?
こっちはおもしろくも
なんともないわよーっ!)
_心の中でだけ文句を言う
あたしに、柳瀬クンは重ねて、
「松嶋センパイって、
けっこうかわいいんだ♪」
プーさんの蜜壺に入ってる
ハチミツがとろける
みたいな笑顔で、そんな
ことを言う――……。
「なっ………!」
『何バカなこと言ってんの!』
って怒鳴ろうとした声を、
後輩達の叫び声がかき消した。
_「かわいいだって!
ヤダー、莉央さんいきなり
告られてるしぃ!」
「あ〜ん柳瀬クン、答えを
出すのはまだ早過ぎよぉ!
ここには他にも女のコ
いっぱいいるからぁっ!」
「え? あ、いや、別に
オレそんなつもりで
言ったんじゃ……」
柳瀬クンにとっては予想
外の反響だったみたいで、
ポカンとした顔してたけど……。
_――今さら遅いわよ、バカ。
この女ばかりの部署で、
キミみたいなコの一挙手
一投足は、どんだけでも
注目集めちゃうんだから。
それに――フェイントで
『かわいい』なんて
言うんじゃないわよ。
しかも、あんな笑顔で言うから。
――思わずあたしも、
ドキッとしちゃった
じゃない――…。
_
「あーもー、みんなうるさい!!
マジでこの話終わり!
早くしないと休憩終わるよっ!!」
金切り声に近い声で
あたしが叫んで、ようやく
その場の騒ぎはおさまった。
後輩達はメイク直しがまだ
だったのを思い出して、
『あ、ホントだ、時間ヤバッ』
とか言い出す。
あたしも憮然とした顔で
お弁当箱を片付けながら、
「……柳瀬クンも。
何かすることあるなら
1時までにね。
午後からは、他部署の
挨拶まわりするから」
_そう言うと、柳瀬クンは
一瞬の間のあと、
『あ、ハイ。わかりました』
って頷く。
まったく……ホント、
お騒がせな新人クン。
「それじゃ、また後でね」
あたしは彼の顔も見ないで
そう言うと、自分もメイク
直しに行くために、
席を立った――。
☆☆☆☆☆
_
「……ってわけでだいたい
月1回のペースで新作を
発表してるから、仕事の
流れはパターン化してるわ。
デザイナーチームが、まず
大量にデザインを用意する。
あたし達商品企画はそれを
吟味して、実際に発売する
までの計画を立てるのが仕事よ」
――二人きりのB会議室で。
とりあえずあたしは
マジメに、柳瀬クンに
仕事の流れをレクチャーしてた。
_柳瀬クンはいたって普通に
話に集中して、『ハイ』
とか『へぇー』とか言い
ながら、聞いてくれてる。
正直やってみると意外に
講師がつとまってて、
自分でもちょっとビックリ
してたりして。
まぁ、ダテに5年も働いて
ないってことかな。
そんなこんなでマンツー
マンでレクチャーを
続けて、ふと気づくと
もうお昼だった。
_「あ、もう休憩かぁ。
――よし。今日は勉強は
ここまでにしよっか。
そんで午後からは、
オフィスの方に行ってみよ」
座って勉強ばっかしてても
多分ピンとは来ないもんね。
それに、疲れちゃうし。
資料を片付けながらそう
話すあたしに、柳瀬クンは
しっかりと頭を下げて、
「ハイ。
どうもありがとうございました」
って、礼儀正しくお礼を
言ってくれる。
_「――――/////」
なんかさっきから、こんな
カッコイイ子に丁寧な挨拶
連発されて、正直照れるな。
しかも見た感じチャラそう
だから、意外さもあって
よけいに戸惑っちゃう。
「い、いいよそんな
お礼なんて////」
ドギマギしながら言うと、
柳瀬クンは『え?』って
顔をして、
「でも、オレの講師して
くれたわけだから。
やっぱ、『ありがとう』
でしょ?」
_「ま、まぁそうなんだけどさ。
でもホラ、あんま
かしこまらなくても。
うちって、けっこう
フレンドリーな会社だから」
「え、オレ、そんなかしこ
まってる感じします?」
マジメな顔で聞き返され
ちゃったんで、あたしは
さらにあわててフォロー
するように、
「いや、えっと、別に悪い
ことじゃないんだけどね
その――とにかく言いた
かったのは、必要以上に
気をつかわなくていいよ、
ってこと」
_なんとかそうまとめると、
柳瀬クンは一瞬キョトンと
した顔をしたけど、すぐに
それを笑顔に変えた。
「わかりました。
オレの方こそすいません。
オレ、前職がわりと体育会
系だったんで、たぶんその
ノリがしみついちゃってん
ですよね」
「あ、そうなんだ……」
それはちょっと意外な
発言だった。
_体育会系って言ったら、
やっぱ肉体労働とか?
こんなにイケメンで
キレイ系で、全然そーゆー
イメージじゃないのに。
ちょっと、
『何してたの?』なんて
聞いてみたくなったけど――
さすがに会って数時間で
突っ込み過ぎかなって
思って、やめといた。
代わりに曖昧にほほ笑んで、
「若いのに礼儀正しくって
スゴイね。
まぁ部長にはそのままが
いいかもだけど、あたし
とかにはもっと普通でいいよ」
_すると、柳瀬クンは照れた
ように笑って、
「別にスゴクはないですよ。
てゆーか“若いのに”って――
松嶋センパイとたいして
変わんないんじゃ?」
「えっ!!?」
おっと。
まさか歳の話になだれ
込んじゃうとは……なんか
逆にあたしが突っ込まれ
ちゃってんじゃん。
しかも“変わんない”
って、一体あたしのこと
いくつだと思ってんだろ??
_「変わんない……ことは
ないでしょ。
あたし、新人で入ってくる
ような歳じゃないもん」
「イヤ、オレだって中途だし。
んじゃ、いくつなんですか?」
「えええっ!?////」
ス、ストレートだなぁ(汗)
そーゆーキャラなのかしら。
「25だけど……」
ちょっと迷ったけど、隠す
のも歳を気にしすぎてる
みたいで嫌だし、正直に答える。
_「そっか。オレは22です。
松嶋センパイ、25には
見えないですね。
同い年くらいかと思ってた」
「そ、そう? ありがと……」
どこまで本心かわかんない
けど、とりあえず若いって
言ってくれたわけだし
お礼言っとく。
にしても22――3歳年下か。
やっぱ若いんじゃん。
3歳差とはいえ、まだ
大学生でもOKな男の22歳と
OL5年目の女の25歳じゃ、
けっこうその差は大きい。
_そんなことを考えてたら、
すっかりオバサンくさい
自分の発想にむなしく
なってきた。
あたしはそれ以上考える
のをやめて、気を取り直す
ように声を張り上げる。
「――とにかく、休憩にしよ!
お昼は持って来た?」
「イエ、ぜんぜん」
「そっか。
あたしはお弁当だから中で
食べるんだけど……」
_「あ、そんじゃオレも
なんか買って来ます」
柳瀬クンはニコッと笑って
立ち上がった。
「そう?
それじゃ、あたし達の
オフィスわかる?」
「わかりますよ。
朝、宇佐美課長が教えて
くれたんで」
そうして、あたし達は
オフィスでまた合流する
ことにして別れた。
先に会議室を出てった彼を
見送って一人になると、
自然と長い息がもれる。
_「……な、なんか疲れた……」
緊張がとけたせいか、
なんかイッキに疲労が
押し寄せてきた感じだわ。
研修なんて慣れない上に、
生徒はあんなイケメン君
なんだもんなぁ。
これは、いろんな意味で
これから先が思いやら
れるぞ……。
☆☆☆☆☆
_ ☆☆☆☆☆
数分後の我が《ストロ
ベリーガールズ》の
オフィスは、ハッキリ
言って騒然となってた。
理由はもちろん、事前に
なんの報告もなかった
新人の登場、なんだけど。
ここまで騒然となるのは
説明するまでもなく、その
新人が若くて超イケメンな
男のコだからだ。
「マジビックリしたぁ!
まさかうちの部に男の人が
入ってくるなんてぇ〜」
_「ホンット!
決まってたんなら課長も
昨日教えてくれたらいい
のにね!!」
「で、柳瀬クンはどーゆー
仕事するんですかぁ?
なんか新しいことやるの!?」
後輩達が女子高生みたいな
ハイテンションで質問
攻めにしてて、柳瀬クンは
ろくにご飯も食べれてない。
さすがにかわいそうに
なって後輩を注意しよう
かと思ったら、それより
一瞬先に彼女達に声がかかった。
_「ちょっとみんな、
うかれるのはわかるけど
いい加減にしな。
柳瀬クン、困ってるでしょ」
苦笑混じりにさとす声の
主は、チーフの沙織さん。
やっぱ沙織さんはこういう
ときも大人だな。
いいお姉さん分である
彼女に言われると、みんな
素直に『はぁい、すいま
せーん』って謝る。
そして、今度は幾分
落ち着いたテンションで、
「けど、いいなぁ莉央さん。
これから1ヶ月もこーんな
新人さんの教育係なんだぁ」
_「え!?
い、いいなぁってなんでよ!?」
あたし、別にやりたくって
やるわけじゃないンだけど!?
「えー、いいじゃないですかー。
女ばっかの部署に配属
された、いわばオアシスを
独り占め♪」
「ウンウン。
あたしが莉央さんと同期
だったら、部長にあたしが
やる! って言っちゃうかもー」
「はあっ!?
あんたら何言って……」
_まったく、ヒトゴトだと
思って好き勝手言っちゃって。
こっちは代わってもらえる
なら代わって欲しいってーの!
けど、さすがに本人の
手前そこまでは言えないんで、
「いいとかよくないの
問題じゃないでしょ!
仕事なんだから!」
ちょっとキツい口調でそう
言って、後輩達をあしら
おうとする。
_だけど後輩も簡単には
引き下がらず、
「そりゃー仕事だけどぉ。
でも二人っきりで研修
してるうちに親密になって……
気づくといつの間にか――
みたいなっ!?」
言った直後後輩はキャーッ
と叫んで、隣の同僚と手を
握りあって『ヤダー!』
とか騒ぎ出した。
「バッ、バカ!!
そんなことあるわけないでしょ!
妄想もいい加減にしなよ!」
_親密になって、いつの
間にかどうにかなっちゃう??
あたしが、この柳瀬クンと??
ンなことあるわけないっての!
そんなのは、もう――……。
……混乱しかけてた
あたしの耳に、そのとき
ふいにクスクスッて笑い
声が聞こえてきた。
ハッとして見ると、今まで
黙ってやり取りを眺めてた
柳瀬クンが、唇に手を
当てて小さく笑ってる。
_「―――え? な、なに??」
彼が何を笑ってるのか
わかんなくて、ためらい
つつも尋ねると、
「イヤ……ごめんなさい。
なんか松嶋センパイの
反応がおもしろくて」
柳瀬クンは必死で笑いを
噛み殺しつつ、そう言った。
(はあ? おもしろい!?
こっちはおもしろくも
なんともないわよーっ!)
_心の中でだけ文句を言う
あたしに、柳瀬クンは重ねて、
「松嶋センパイって、
けっこうかわいいんだ♪」
プーさんの蜜壺に入ってる
ハチミツがとろける
みたいな笑顔で、そんな
ことを言う――……。
「なっ………!」
『何バカなこと言ってんの!』
って怒鳴ろうとした声を、
後輩達の叫び声がかき消した。
_「かわいいだって!
ヤダー、莉央さんいきなり
告られてるしぃ!」
「あ〜ん柳瀬クン、答えを
出すのはまだ早過ぎよぉ!
ここには他にも女のコ
いっぱいいるからぁっ!」
「え? あ、いや、別に
オレそんなつもりで
言ったんじゃ……」
柳瀬クンにとっては予想
外の反響だったみたいで、
ポカンとした顔してたけど……。
_――今さら遅いわよ、バカ。
この女ばかりの部署で、
キミみたいなコの一挙手
一投足は、どんだけでも
注目集めちゃうんだから。
それに――フェイントで
『かわいい』なんて
言うんじゃないわよ。
しかも、あんな笑顔で言うから。
――思わずあたしも、
ドキッとしちゃった
じゃない――…。
_
「あーもー、みんなうるさい!!
マジでこの話終わり!
早くしないと休憩終わるよっ!!」
金切り声に近い声で
あたしが叫んで、ようやく
その場の騒ぎはおさまった。
後輩達はメイク直しがまだ
だったのを思い出して、
『あ、ホントだ、時間ヤバッ』
とか言い出す。
あたしも憮然とした顔で
お弁当箱を片付けながら、
「……柳瀬クンも。
何かすることあるなら
1時までにね。
午後からは、他部署の
挨拶まわりするから」
_そう言うと、柳瀬クンは
一瞬の間のあと、
『あ、ハイ。わかりました』
って頷く。
まったく……ホント、
お騒がせな新人クン。
「それじゃ、また後でね」
あたしは彼の顔も見ないで
そう言うと、自分もメイク
直しに行くために、
席を立った――。
☆☆☆☆☆
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