《完》オフィスに鍵をかけて 〜キケンな部下と秘密の恋〜

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バレンタインが終わって
数日経つと、ホワイトデー
企画に思ってもない
ハプニングが起きた。




というのも予想以上に
評判がよすぎて、まだ3月
にもなってないのに、
ほとんどの商品が予約終了
状態になっちゃったのだ。




で、これは間違いなく
売上が伸ばせると踏んだ
上層部は、土壇場での
追加発注を命じてきて――。



_数量限定でしか製造の
予定してなかったから、
あたしと瑞樹クンは急な
プラン変更に大慌て。




新たな予算繰りや関係先
への手配なんかで、また
毎日残業の日々が訪れちゃう。




その日もあたしは定時を
過ぎても関係先を回ってた。




瑞樹クンは別行動。




もう独り立ちしてなんでも
こなせるようになってる
から、彼には社内各部との
調整をお願いしてた。



_(瑞樹クンが優秀で
ホントによかった……)




訪問を終えて時間を確認
すると、もうまもなく
7時になろうとしてる。




「どうしよう……今日は
直帰しようかなぁ〜」




声に出しつつ考えたけど、
でもやっぱり会社に戻る
ことにした。




今から戻れば着くのは
8時前くらい。




超残業だしもう誰もいない
だろうけど、今日あがった
報告を確認しときたい。



_「はぁっ……がんばりますかぁ」




自分を励ますようにそう
言って、地下鉄を乗り継ぎ
会社に戻り……。




無造作にオフィスのドアを
開けて、あたしは思わず
ビクッとした。




「――瑞樹クン!? 

まだいたの!?」




そう。

てっきりもう誰もいないと
思ってた室内に、ポツンと
一人、瑞樹クンがいたから。




「おかえりー、莉央さん」



ヒラヒラと手を振り、
笑顔で出迎えてくれるけど――。



_「お帰りって……。

どうしたの? 
何かトラブった?」




社内残務だけでここまで
遅くなることはないはず。




そう思ってちょっとドキ
ドキしながら聞いたんだけど、




「トラブル? 

ううん、そんなの何もないよ」




「そうなの? 
それじゃあどうして?」




「どうしてって――。

そんなの、莉央さんを
待ってたにきまってるでしょ」



「え…………?」



_唐突なセリフに心臓が
ドクンと高鳴る。




「待ってたって……

だから、どうして……」




「ウン。

莉央さんと二人きりに
なる、いいチャンスかな
って思ったから」




「――――/////!!」




瞬間的に、顔に火がついた
みたいに熱くなる。




ヤだ、どうしよう……。



あたしきっと、もう顔が
真っ赤だ。





(仕事が忙しくなった
おかげで、なんとか忘れて
いられたのに――)



_まさしく不幸中の幸いで、
これがもし普通の忙しさ
だったら、きっとあたし
まともに瑞樹クンと話すら
できてなかった。




でもさすがに緊急事態
だったおかげで、余計な
ことを考えてる暇なんてなくて。




それでなんとか瑞樹クン
とも、それなりに普通に
接してられたんだ。




(それなのにそんなこと
言ったら、カンペキ思い
出しちゃうじゃない――!)



_こないだの――
バレンタインの日の、
会議室での出来事。




全部がどんどん鮮明に
よみがえってくる。




必死で訴えたあたし、
悲しくて泣いたあたし。




……その後の、瑞樹クンの言葉。




そしてその時気づいた、
あたしの中に芽生えた
気持ち――……。




(どうしよう………?)




彼の待つこの部屋に足を
踏み入れたら、どうなるの?




そんな不安と淡い予感に、
心が震えた。



_ためらって戸口から中に
入れないあたしに、瑞樹
クンは席を立って静かに
近づいてくる。




そしてスッと伸ばした
手で、あたしの腕を
クイッと引いて、




「そんなとこにいないで
入りなよ。

外、寒かったでしょ」




「あ…………!」




彼に引き寄せられて。



……あたしの体は、
二人きりのオフィスに
飛び込んでしまった。




瑞樹クンはチラッと
あたしを見ながら後ろ手に
ドアを閉めて、



_「どうしたの?

急におとなしくなっちゃって」




「え? そ、そんなこと……!」




「あるでしょ?

もしかして……
外、そんなに寒かった?」




「はっ!? えーと、あの、」




そりゃ、外は2月の夜の
凍えるような冷気。


寒くなかったわけはない。




でも、瑞樹クンはなんで
そんなこと聞いてくんの?




彼の意図が、わかんないよ……。



_そう思ってたら瑞樹クンは
次に、さらにとんでもない
行動に出てきた。




「かわいそう……。

ゴメンね、莉央さんに
ばっか寒い思いさせて。


――オレが、暖めてあげる」




そう言って再びあたしの
両手を取ったかと思うと、
掌を開かせて、それを
自分の頬へ――…。




「……………//////!!!!」




不可抗力で彼の両頬を掌で
包む形になって、あたしは
寒いどころか瞬間湯沸かし器。



頭もまともにまわんない。



_「な、何を……!?」




「あれ? 

思ったより冷たくないかな?」




瑞樹クンがからかうように
笑ったのを見て、あたしは
ようやく両腕に力を込めて
振った。




拘束が解かれた腕を自分の
胸元に引き寄せつつ、




「もうっ、からかわないでよ!

こっ、こんな遊びしてる
場合じゃないでしょっ!?」




そう叫ぶと、瑞樹クンは
いかにも心外だって顔をして、




「遊びなんかじゃないよ。

ひどいな。オレ、いたって
真剣なのに」



_「どこがよっ。

もう――ホントにタチの
悪いイタズラばっかり
するんだから……!!」




「だからイタズラじゃ
ないってば。

わかんないかなー。


――莉央さんを、ドキドキ
させたかったの」




「は―――……?」




思わず顔をあげて瑞樹
クンを見て……あたしは
縫いとめられたように
視線がそらせなくなる。




いつの間にか瑞樹クンの
瞳からは、彼の言葉どおり
冗談めいた色が消えてて。



_今の彼の瞳には、真剣
そのもののどこか神秘的な
光が、輝いてる――。




(ヤだ――そんな目で
見ないでよ……)




なんだか心ごと全部、
瑞樹クンの中に吸い込まれ
てっちゃいそうな気がするよ。





「最後にもう1回だけ、
確かめたかったんだ。

オレだってこーゆーのは
緊張するしね」




瑞樹クンは独り言みたいに
そんなことを言うと、
ゾクッとするような
優しくて艶っぽい笑みを
浮かべて、




「でも、わかっちゃったかな。


ね、莉央さん。

今、ドキドキしてるでしょ?」



_それは、小悪魔のように
イジワルなのに、なぜか
心を甘くくすぐるような。



……そんな、媚薬にも似た
ささやき。





――ドキドキなんて
もんじゃないよ。





あなたにそんなことを
言われたら――

あたしの体は、今にも形が
わからなくなりそうな
くらい、不思議な痺れに
支配されるのに。




切なくて甘い電流が体の
中を駆け抜けて。




体が溶けてなくなっちゃい
そうなくらいどうしようも
ない疼きが、あたしを
捕らえて、離さないのに――。



_「ね? 教えてよ、莉央さん。

今、ドキドキしてる?」




「――してるよ。すごく」




きっとあなたに
嘘なんてつけない。




素直に答えると、彼は
今まで以上にあたしに
体を寄せて、




「課長といるときよりも?」




「…………!?」




ひどいな。

こんなときに、課長の
名前なんて出さないでいいのに。




「そんな聞き方しないでよ。

……イジワル」



_「ゴメンね。

でも、オレにはけっこう
重要なんだよ?

なんせ、イロイロ全部
見てきたわけだから」




「もう………」




だけどたしかに、瑞樹クン
には今さらかっこつけても
仕方ないくらい、全部
見られてきたね。




課長を好きだったあたしも
迷ったあたしも。





……いいよ。





そんなあなたになら、
変わった今のあたしも
もっと見てほしい。



_「課長といるときよりも、
だよ――…」




いつの間にか、あたしを
こんなにドキドキさせる
のは瑞樹クンだけになってた。




今はもう、課長に対して
こんな感情は抱かない。




だって、今のあたしは――…。




「……ありがと。


大好きだよ、莉央さん」




あたしが伝えようとする
よりほんの少しだけ早く、
瑞樹クンが先にその言葉を
口にした。



_「あたしも――大好き――」




先は越されちゃったけど、
ちゃんと伝えるよ。




「まっすぐで、強くて。

そんな瑞樹クンが、大好きだよ」




それを聞くと、瑞樹クンは
くすぐったそうにはにかんで、




「オレ、そんなにまっすぐ
でも強くもないぜ?

まあ仕事ではどうか
しんないけど。

プライベートでは、好きな
人が他の男とホテル入るの
見ただけで、取り乱して
不機嫌になるような男だよ?」



_「バカ……。

またそんなこと言って……」




ヤキモチ妬きも、
瑞樹クンの一部。




でもやっぱり、あたしは
知ってるから。



そんな瑞樹クンの、隠れた
強さや優しさを。





「ホントに、あたしで
いいの……?」




瑞樹クンほどの人なら、
これから先も山のように
素敵な人達と出会いが
あるに決まってる。



それこそ、あたしなんか
より何倍もふさわしい人も
いるかもしれない。



_それでも今、あたしを
選んで後悔しない――?




「何言ってんの。

てゆーか、莉央さんじゃ
なきゃイヤだよ。


最初から、正直で頑張り
屋のカワイイ人だなって
思ってた。

でも、一緒に過ごすうちに
もっとどんどん好きに
なってった。


オレもう今、莉央さんしか
見えてないから」




「瑞樹クン………!!」




嬉しすぎて涙が出そうな
くらいの言葉だ。



_あたしはそんなに立派な
人間じゃないけど……


でも瑞樹クンがそう思って
くれるなら、少しでも
そうあり続けるように
努力したいって思う。




そうしてずっと、
瑞樹クンのそばにいたい。





「ホントに、大好きだよ――」





もう一度、瑞樹クンが
そうささやいて。




そうしてどちらから
ともなく、唇を重ねた。




初めて本当に触れる唇は、
とっても暖かくて。



_そこから伝わる温もりが、
あたしの心までポカポカに
してくれる。




幸福な安堵を感じながら、
あたしはいつまでもその
キスに溺れてたかった。




だけどやがて、キスは
瑞樹クンの方から解かれて、




「莉央さん――

オレ、もう待てないよ」




耳元で、瑞樹クンの声が
甘くあたしをくすぐる。




(ま、待てないって……?)




「ホントはバレンタインの
翌日から言いかったのに、
追加発注のせいでとんでも
ないことになっちゃってさ。

やっと今日、言えたけど」



_「そうだったんだ……」




「ウン。

だからもう、抑えきかない。

オレ、莉央さんが
欲しいよ。……今すぐ」




大好きな人の甘い愛の言葉。




それに、お互いもう
子供じゃない。




愛する人を求めるのは
自然なことだし、求め
られるのは幸せなことだ。




そう思うけど――だけど
さすがに最後の言葉は、
黙って受け入れることが
できなかった。



_「―――い、今すぐ!?」




慌てた声で聞き返すけど、
瑞樹クンは熱っぽいキスを
あたしの頬に繰り返しながら、




「ウン。―――ダメ?」




「ダメ? って、
だってここ、会社――!」





「もう誰もいないじゃん。

平気だよ」




「そーゆー問題じゃ
ないでしょ!?

会社でなんてできるわけ
ないじゃない……!」




だけど瑞樹クンはあたしの
抵抗なんてムシするかの
ように、キスの位置を
徐々に下げてくる。



_頬から首筋を伝い、鎖骨へ。




それと同時に、スカートの
中にスッと手が入ってきて――。




「………あっ、ん………!」




拒まなきゃいけないって
思ってるのに、体が
反応して声が漏れた。




「……カワイイ声。

ねぇ、もっと出してよ」




「何言って―――ぁんっ、
そんなとこ触っちゃ――!」




自分の出したなまめかしい
声に、自分でカーッと体が
熱くなる。




(なんて声出してるのよ、
あたし――…!)



_「瑞樹クン、やめ………!」




「やめない。

大丈夫だよ、いざと
なったら鍵かけちゃうから。

莉央さんだってそう
してたもん、反対なんて
しないでしょ?」




「あ、あれは………!」




鼓膜を震わせる声は
こんなにもイジワル
なのに、愛しくて。





どうしよう。





あたしはやっぱり、
溺れちゃいそうだよ。




「愛してる、莉央さん。

ゼッタイ、誰にも渡さないから」



_痺れるようなささやきと
巧みな指使いが、あたしの
意識をバラバラに壊してく……。




漏れ出る声を、キスで
ふさいでもらって。





あたしは深く深く、
瑞樹クンの愛を受け
入れていった――…。





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「ねぇ莉央さん。

チョコケーキって作れない?」




唐突な質問に、あたしは
目をパチクリさせて隣を見る。




「何よ、いきなり?」





――ここは瑞樹クンの部屋。




あたし達は裸の体を
ピッタリ合わせて、
ベッドの中にいる。




会社ではあんなことを
言ってた瑞樹クンだった
けど、結局はタクシーで
あたしをここまで連れて
来てくれた。



_てゆーか信じられないけど
――あんなこと言ってた
のも、本気じゃなかった
みたいで。




途中でいきなりピタッとやめて、

『やっぱ莉央さんかわいすぎっ』

なんて言って、笑い出したんだ。




呆然とするあたしに
彼は短くキスをして、




『ジラされた分の、お返しだよ』





――そうしてこの場所で、
あたし達は本当に結ばれて。




余韻が引かない体を横たえ
ながら、二人でたわいの
ない話をしてる時だった。



_「チョコケーキって……
甘いものでも食べたいの?」




本当に意図がわからなくて
そう聞くと、瑞樹クンは
ちょっとすねたような
声になって、




「違うよ。

前に言ったじゃん。

バレンタインの話」




「ああ―――…」




思い出した。




そういえばバレンタイン
前に、瑞樹クン言ってたな。


『彼女がいたらチョコ
ケーキとか焼いてほしい』って。



_つまり、あれかな。




今日からあたしは彼女
だから、バレンタインの
やり直しをしたいってこと?




「チョコレートも渡した
のに、まだもらう気?

贅沢ねー」




ホントは断る理由なんて
何もないけど、少し意地悪
してそう言ってみる。




そしたら瑞樹クンはさらに
むくれて、




「だって、あれは義理じゃんか。

しかもオレ怒ってたから、
ちゃんと受け取りも
しなかったし」



_そういえば、そうだったね。




まだ一週間も経ってない
のに、もっとずいぶん前の
ことのような気がする。




子供みたいにすねる顔が
かわいくて、あたしは
早々に意地悪モードを終了して、




「いいよ。作ってあげる」




「マジで!? やった♪」




パチンと指を鳴らして、
今度は子犬みたいな顔で笑って。





……大人なのか子供なのか
わからない。



ホントに、不思議な人。



_だけどそんな不思議な
ところも、今のあたしには
狂おしいくらい愛しいよ。




後輩で、部下で、彼氏で。




秘密の恋になるけれど、
この恋には課長との時の
ような辛さは、きっとない。




何も生み出さない恋じゃ
なくて、いろんな新しい
ものを生み出す恋。




きっと、そんな恋になる。




幸せな予感を感じながら、
あたしはそっと、
瑞樹クンの胸に小さく
キスをした。











       ☆END☆


_