「さむっ」


マフラーを巻いてくるのを忘れたことに気がついて、あわてて取りに戻る。

そんなあたしを見ながら、あいつはくすくす笑っていた。


「バッカだなぁ、かな。普通マフラーは忘れねぇだろ」

「うるさいな、しずが来たから急いだんだよ」


隣をあるくそいつのわき腹を肘で小突くと、彼は大げさに痛がって見せた。

骨が折れた、なんて今どき小学生でも言わないようなセリフを口にする。


あたしの名前は奏(カナデ)で彼の名前は静季(シズキ)。

彼はあたしを「かな」と呼ぶし、あたしも彼を「しず」と呼ぶ。


お互いに愛称を呼びあえるような軽い関係が、気兼ねなくて結構好きだ。