alternativeⅡ

脱走でも企てたのか、それとも上官に手でも上げたのか。

普通独房に入れられている兵士を見れば、そう考えるだろう。

しかし、この青年が見張りの兵士達よりも上の階級…少佐だと言ったら信じるだろうか。

ルシファー・ルーン。

AOK臓器移植実験の第2号。

21歳と年齢こそ若いが、一度死亡して二階級特進し、実験によって蘇生した為に現在の階級は少佐である。

キリスト教の伝統においては、ルシファーは堕天使の長であり、サタン、悪魔と同一視される。

故にこのリトルクリーク基地では、彼は皮肉を込めて『堕天使様』と呼ばれていた。

本来ならば臓器移植実験の被験者は高い生命力を持つ為、最前線に送られる。

だがルシファーはAOKの臓器が完全には適応しておらず、稀に拒絶反応で激痛が走る。

加えて性格は性悪で不安定の為、いつもはリトルクリーク基地に軟禁されているのだ。

“失敗作”。

それが彼のもう一つの呼び名。

「よぅ失敗作、調子はどうだい?」

鉄格子を軍靴で蹴り上げ、呼びかける兵士。

…ルシファーは何も言わず、ただ薄く笑みを浮かべた。