alternativeⅡ

ずっと思っていた。

この軍刀は、戦場に立つ事になった妃を死地に導こうとする皮肉なのではないかと。

自分にだけ後遺症の残る傷を負わせて、のうのうとこうして五体満足に生き延びている妃を、時雨は恨んでいるのではないかと。

だが…。

「その軍刀は、私が幾多の修羅場に遭遇して尚、ずっと生き残らせてくれたゲンのいい刀だ。だから妃、お前に託す事にしたのだ」

時雨は柔らかく微笑む。

「この私がずっと死ぬ事なく生き延びられたという保証つきだ。必ずお前も生きて帰れる…御利益があるぞ?」

「時雨っ!! 」

たまらず妃は車椅子の時雨に抱きつき、誰の目も恥じる事なく大声を上げて泣いた。

「おいおい…」

時雨も彼女を抱き締め、子供をあやすようにトントンと背中を叩く。

「これではどちらが年上だかわからんな…」

…妃の胸の中で、ずっと重く圧し掛かっていた十字架。

その憂いの一つがここで断たれた。

最終決戦に向けて、幸先のいいスタート。

…その光景を、ルシファーは部屋の外から密かに見つめていた。

同じAOK臓器移植被験者でありながら、妃を赦した時雨を、彼はどんな想いで見つめていたのだろうか…。