千往はくすんと鼻をすすっただけで、なんにもしゃべらない。 俺もわざわざ何かしゃべろうとはしない。 いつの間にかあれだけいた自転車の群れが、視界の中から消え去っている。 歩く千往のスピードに合わせる俺と、出来るだけ速く歩こうとする千往。 千往が履いたローファーの硬い靴底とアスファルトがぶつかって、ぱちぱちと音がする。楽器みたいだ。 まるで違う世界に飛んでいったみたいだ、俺は思う。 自転車の群れが? それとも、俺達が? 「ねえ、有斗」 千往の声で我に返る。