ダジン川と街道が交わるあたりにアショの街はあった。
村から細道をくだって街道へ出ると、とたんに人の往来がはげしくなり、椿は人にぶつからぬように気をつけながら歩きはじめた。
 
 街は椿が想像していたものより、ずっとみすぼらしかった。
軒を連ねる店はみな木の小屋で、石やら粘土やらで作られた泰の都との余りの差に驚いた。

 行き交う人の熱気、馬の匂い、なにかを蒸している香ばしい匂い…。
街に近づくにつれて匂いも音もすべてが大きくなってくる。
犬が興奮して駆けまわり、店番の小さな子供たちが、金切り声をあげて犬を追い払っている。

「ここはシャーサンっていう端っこの街だ。都のハチャルはもっと大きいぞ」

李漢は不思議そうな椿を見て苦笑し、そのうちの一軒の前にたった。
薄布を持ち上げて入ると、中に声をかけた。

「おい、いるかい、トマさん」

奥でごそごそと動く音がして、やがて小柄な人影が現れた。

「まあまあ、リカンさん。久しぶりじゃないの。今日はどうした用件で?」

トマと呼ばれた初老の女性は、商人らしい、はきはきとした口調で李漢を迎えた。

「トマさん、実は今度この子を預かることになったんだ。
なに、姉の子供でね。向こうにもいろいろ事情ってもんがあるのさ。
それがあんまり急だったもんで困った。なにせ衣も下着もないからね。
俺には女の好みってもんはわからんのでね。何か適当に見繕ってやってくれるかい?」

李漢の頼みに、トマは快く頷いた。

「ええ、ええ。
そういうことなら任せなさいな。その子は見たところアショの子じゃないようだけど、泰の子なのかい?
それならそれでいいんだよ。わたしが泰語を話せばいい話だからね」

トマは一人で頷くと、図るような目になって、椿を見つめた。

「あなたいくつなの?」

「…八つです」

「そう。ずいぶん痩せているのね。
いいわ、こっちにいらっしゃい。好きな衣を選びましょう。自分で選ぶのが一番よ」