昼休み、先生に声をかけられて
放課後に準備室へくるように、と言われた。
というわけで私は今、準備室へ向かっている。
私、何か悪いことでもしたのかな、と思いながらドアを開けると
こちらに背を向けてプリントの採点をしていた先生に「適当に座ってくれ。」と言われた。
目の前にあった古ぼけた椅子に座りながら、ぼぉ、と先生の背中を眺めていたら
カタン、と音を立てながら先生が立ちあがって
私の向かいの同じく古ぼけたソファに座った。
胸ポケットから煙草を取り出して、ライターで火をつけ、口元に運ぶ。
そんな流れるような先生の指の動きを、とても綺麗だと思った。
できれば煙草を吸うこの横顔をずっと見ていたい、とも。
だけど
「先生、ここ禁煙。」
と茶化すように言ってみた。だって煙たいんだもの。
すると先生は小さくあぁ、と呟いて
「悪ぃな、これだけ吸わせてくれ。」
と言って窓際へ向かった。
あー、まじめだなぁ。
じぃ、と先生の後ろ姿を眺めていたら、小さな違和感に気づいた。
…あれ?さっき私、何考えてた?
先生の指が綺麗だとか、横顔をずっと見てたいとか…
そこまで思い出すと、急に心臓がドクンと高鳴って、顔が熱くなった。
戻ってきた先生に「おい、大丈夫か?顔赤いぞ。」と言われて顔を近づけられたら
心臓がもっと早く脈打って、バクバクという自分の心音しか聞こえなくなった。
その後のことはよく覚えていない。
先生の話は頭に入らなくて
家に帰ってからも心臓は治まってくれなくて
ただ、今日の話をもう一度確認するために
明日も先生に話しかけることができるのが、妙にうれしかった。
end.
→忘れられない月夜


