「きゃっ!」
しかし早歩きは何者かによって妨げられた。
通り過ぎかけた、あまり使われる事がない教室。
そのドアから突如現れた手は、私を一瞬にしてその教室の中に連れ込んだ。
「!?!?」
暗幕の張り巡らされた窓からは午前中だと言うのに日光は差し込まず。
真っ暗で何も見えない。
『蝶々さん』
「―――…っ!」
"蝶々さん"………。
ある1人しか、決して呼ぶ事ない私の名称。
「先生……?」
『へへ』
「生徒連れ込んで"へへ"じゃないし」
肯定こそないが、絶対にそうだ。
それにしてもどうやって先回り……?
…やっぱり人間じゃないなこいつ。
「なんの用…?」
私がせっかく逃げ出したのに、当事者に追ってこられたら元も子もない。
『だって夂葉さん、』
それに此処学校だし…、こんな状況……
『泣きそうだったから』
「はぁ?」
誰が、何時、泣きそうになんてなった…?
「勘違いだって」
『違うよ?』
「だから…――!」
『僕が波内さんと仲良くしてるの見て…、君は泣きそうだったんだよ?』
「やっ……」
艶のある、低音。
その声、苦手。
今になって、気付く危なげな体制。
背中はドアに固められ、左右には先生の腕、目の前には先生の胸板。
…動けない。



