帰り道、自分がどうやって足を進めてたかなんて覚えてない。
それくらい私の頭はぼうっとしていて。
まさか、一緒に住もうなんて言われると思わなかった。
『夂葉さん、お帰りなさい』
私より早く帰宅していた先生に出迎えられる。
そう言えば先生に出迎えてもらうのなんて初めてかもしれない。
『夜ご飯食べるよね?』
にこっと笑ってリビングに向かおうとした先生の腕を掴む。
「先生…」
『どうしたの?』
掴んだまま下を向く私を心配そうに覗く先生。
今日私がお姉ちゃんと話をしにいったのは知ってるから、私のこの様子はそこで何かあったからだというのは分かる筈。
『取り敢えず座ろっか』
先生は私の頭をぽんと叩いて、こたつまで導いた。
『お姉さんに酷い事言われた?』
向かい合わせに座って、先生は私に問い掛ける。
その問いに私は変わらず下を向きながら無言で首を振る。
「…一緒に住もうって言われた」
顔は、上げない。
先生をみたら、なんだか涙がでそうな気がして。
先生の反応は?
ただそれだけは気になって。
『………』
しかし無言の先生。
耳だけでは分からない先生の反応。
私は少しだけ目線を上げて、先生の顔を見た。
「………何で」
その表情は、
「……何でそんなに笑顔なんですか」
優しい優しい微笑みだった。



