「親父! いるんだろう!?」

 閉じられた本堂の社の扉を開けば、親父が本堂の片付けをしていた。きっと、今朝出していた天狗様の扇を地下室に直す為だろうと、俺は親父に近付いた。

「親父、天狗様どっか行ったぞ」

 俺が言えば親父は口角を上げ笑った。笑う親父に俺は部屋で起きたことを話した。すると、親父が居間に来なさいと静かに言い、俺は素直に居間に着いて行った。

 居間に着いた俺に親父は一枚の巻尺を見せた。紐を解き中を見ると、火だるまになる街の絵と、風を扇ぐ天狗様達、その足を引っ張る魑魅魍魎の絵が描かれていた。

「これ…は?」
「これは代々我が家に受け継がれている歴史の一部だ。本家から分家へと、何枚にも分かれて保管されている」
「凄い絵だな」

 ちょっと見ていて気持ち良いものではない。どう言えば伝わるのだろう、そう、まるで地獄絵図と言う感じなのだろうか。

「我が家は天狗様を奉る神社であり、天狗様と共有する家系」
「天狗様と共有?」

 いきなり意味の分からんことを親父が話し始めた。
 天狗様と何を共有すると言うんだ一体?

「我が家には、本家、分家に分かれ数々の天狗様と共有している者がいる。『術者』と呼ばれる者達だ」
「『術者』って…さっき、何か天狗様が呟いていたな」

 俺が目覚めた時、天狗様がそんなことを呟いているのを聞いた気がする。その『術者』と、俺が体験したことの何が関係するんだ?