親父に聞かれ、俺は目を見開いた。近付いて来た親父の肩にいるのは、明らか小さな虫?
 俺は勢い良く起き上がると、手の甲で目を擦りもう一度親父の肩を見つめた。

『なんじゃ、人をじっと見つめおって!』
「む、虫が喋ったー!」

 パニックを起こし後退りする俺の前に、小さな虫が降り立った。

『虫とは失礼なやつだ!』

 口にしたと同時に、小さかった虫が大きくなり―――
 漆黒の羽を背に広げ、ふわふわと浮ながら俺を見下ろした。

「お…おまっ、お前誰だよ!?」

 指差し言えば胸から鼻の長い真っ赤なお面を取り出し、顔に装着した。

「お前とは失礼なやつだ。主はわしを知らぬと言うのか?」
「て…天狗…?」
「いかにも、わしは天狗の中でも優秀と称される『鴉天狗』の長である」

 か…鴉天狗ーーーっ!

 鴉天狗と言えば架空の物語の中でも優秀とされ、幾つもの物語で悪い者にされたり、崇められたりしているあの、鴉天狗?

「か、鴉天狗がなんで!?」

 纏まらない頭で親父を見て問えば、面を被った男が答える。

「主達が我等一族を崇めているのであろう? 言わば、我等『天狗一族』は主達の守護神と言ったところだ」

 天狗が神様だってぇ!?
 俺は頭がどうかしちまったのか? 天狗を奉る神社とは知ってはいたが、本当に天狗が神様だなんて…有り得ない。

 くらくらと目の前が暗くなり、俺はまた意識を失った。