「いっただっきまーす!」

 張り切り手を併せると、パンにかじりついた。もごもご言わせながらパンを食べる俺の頭の中に、何者かの声が響いた。

『このハイカラ被れが』

 もごもご言っていた俺の動きが止まる。確かに、頭の中で誰かが喋った。もう一度、もごもごとするもその声は聞こえない。

 首を傾げる俺に、親父の呼ぶ声が聞こえ俺はパンを皿に置くと、直ぐさま本堂へ向かった。
 本堂へ行けば、いつもなら地下室に眠る天狗様の扇が飾られていた。親父も祭り事や新年事にしか着用しない正装姿で本堂に座っている。

「親父、呼んだ?」

 本堂へ足を踏み入れた俺は、肩に強い衝撃を感じ、その場で片膝を踏んだ。
 まるで一気に生気を吸われるような感じで、くっ…と歯を食いしばると痛む肩を掴んだ。

「―…っ、おや…じ?」

 苦しむ俺を親父は何も言わず見つめている。遠退く意識の中、親父の隣に欝すらと人影が見えたが、その姿がはっきりとする前に俺は意識を失った。




 ―…しゃんしゃんしゃんと、小さな鐘の音が聞こえる。これは、祈祷をする時に巫女さんが振るう鐘の音だ。

 どどどどんっと、太鼓を力強く打つ音が聞こえ、俺は目をぱっと開いた。
 俺の額や身体にじんわりと冷や汗が滴り落ちる。目だけを軽く動かすと、ぼんやりと親父の姿が見えた。
 その親父の肩に小さな何かが見える。

「―…気が付いたか、悠斗」