飲むぞと言った篝の前に泰葉が姿を現した。篝の前に胡座を掻くと、注げと言わんばかりに篝から升を奪い取る。
 その姿を見て俺はこの二人が良く分からなくなった。仲が良いのか悪いのか。

「主もどうだ?」

 升に口唇を付けながら、泰葉が俺に聞いたが残念なことに俺は下戸に近い。日本酒なんか飲んだら、明日の講義どころか修業まで出来なくなる。

「俺は飲めないから、お前達だけでどーぞ」

 丁重にお断りすると、俺はまた箱に集中し始めた。

「おい、新参者。そんな根詰めて頑張っても無理だぞ」

 集中する俺に篝が呆れた顔で言う。篝の言うことも一利あると思う。根詰めて頑張っても無理な時は無理だ。
 だけど、しないよりはマシだと思う。だから俺は篝の呆れた顔を見て見ぬ振りして箱に力を集中させた。

「お前の術者は根詰めるのが好きなのか?」
「知らぬ。主のしたいようにすれば良い」

 二人して酒を交わしながら話す声は無視して、俺は力に集中することを考えていた。集中すればするほど、二人の声が頭に響いて上手く集中出来ない。
 二人してさっきから確実に俺批判をしているであろう内容に、気にせずに集中なんて出来るわけがない。

「あのさ…違う場所で飲んでくれないかな?」
「主からは離れられぬ」

 ぴしゃりと泰葉が言えば篝が肩を揺らし笑う。どうせ頼りない術者とか言っていたんだろう。
 今日はこれ以上の修業は無理だと踏んだ俺は、酒盛りする二人に寝ると告げベッドに入った。